日本郵政グループが、正社員の待遇を下げ、代わりに非正規社員の待遇を厚くする制度改正を決定しました。日本企業としては異例の措置ですが、こうした動きは今後、徐々に広まっていく可能性があります。
正社員と非正規社員には大きな格差が存在していた
日本郵政グループでは、正社員にだけ支給している住居手当を廃止し、代わりに、これまで認められていなかった一部の手当を非正規社員にも支給することを決定しました。
日本企業は、正社員と非正規社員との間に、身分格差と呼ばれるほどの待遇差が存在しています。このため日本においては、同一労働、同一賃金が進まず、これが労働市場をさらに硬直化させるという悪循環となっていました。
日本企業における経営者の多くは、いわゆる経営のプロではなく、社員から昇格したサラリーマンで占められています。正社員の待遇を下げるという決断を下すサラリーマン社長はほとんどおらず、これまで正社員に支払われていた手当を非正規社員に回すというケースはほとんどありませんでした。
そのような中、日本郵政がこうした決断を行った背景には、深刻な人手不足と賃金原資の上限という問題があります。
日本は空前の人手不足となっており、現在、多くの企業が非正規社員の確保に苦しんでいます。待遇が悪いままでは、募集をかけても人が集まらないという状況であり、人手不足は各社の経営を直撃しつつあります。
現状の雇用環境を維持する限り、正社員の待遇は下がる
また多くの日本企業が、雇用を維持するため、抜本的なビジネスモデルの変革には後ろ向きです。そうなってくると、企業が生み出す付加価値は増加せず、賃金に回す原資も増えないことになります。非正規社員の待遇を向上させるためには、正社員の取り分を少なくするしか方法はありません。
一方、日本企業は投資家にはほとんど還元しないという従来方針をあらため、投資家への配当を増やしています。このため投資家に還元している分を社員の給与に充当するというやり方も考えられます。しかしながら、今や多くの日本企業の筆頭株主は公的年金となっており、企業の経営は年金運用から大きな影響を受けています。
日本の公的年金は現役世代からの徴収額が給付額を大きく上回っており、大幅な赤字となっています。これを穴埋めするため、安倍政権は公的年金の積立金の多くを株式投資に振り向けました。
もし企業が配当を減額すると、株価が大きく下落し、今度は年金の給付に影響が生じてしまいます。このため企業側は配当を減額するわけにはいかないのです。
正社員の待遇を下げて、非正規社員に回すという動きは、今後、他の企業にも広がっていく可能性があります。これは、終身雇用という現状の制度を維持する限り、避けられない動きと考えてよいでしょう。