北朝鮮の金正恩委員長が北京を訪問しましたが、北京への移動には特別列車が使われました。北朝鮮や中国など独裁国家の指導者は鉄道を好む傾向が強いのですが、それはなぜでしょうか。
独裁者は外国よりも自国の方が信用できない
現代社会においては、要人の移動には主に航空機が使われます。圧倒的に短時間で済みますし、ひとたび離陸してしまえば、撃墜されるような事態にならない限り、安全も確保できます。
しかし金氏は初の外国訪問に、列車での移動を選択しました。ここには独裁者ならではの事情が隠されています。
米国大統領のような人物の場合、テロに対する警戒は常に怠りませんが、自国民から暗殺されるというリスクはほとんどありません。しかし共産圏の独裁者は、敵国による暗殺に加えて、クーデータなど内部のリスクが大きいという事情があります。
また、指導者に対する個人崇拝を国民に強要することも多く、カリスマ性を維持しなければなりません。こうした状況を考えた時、航空機よりも鉄道の方が好都合なケースは多いのです。
鉄道であれば、多くの資材や人員を同じ列車に乗せることができますから、普段の環境をそのまま訪問先でも維持することができます。
北朝鮮の独裁者ともなると、食事やトイレにもどんな危険が潜んでいるか分かりません。ましてや他国に宿泊するとなると、極めて大きなリスクを背負うことになります。鉄道であれば、車内で宿泊することもできますし、安全が確保された食糧や水、身の回りの品物を使うことが可能です。
航空機の場合、飛行場での乗降、自動車への乗り換え、滞在先への移動など、人目に触れる機会が増えてしまいます。その分だけリスクは増加してくるわけです。
決してアウェイになってはいけない
また、鉄道であればスケジュールの急な変更にも対応できます。共産圏の場合、安全を確保するために、予告無しにスケジュールを変更するのは日常茶飯事です。
また、訪問してきた相手を混乱させるため、予定外のスケジュールを入れたり、夜中に突然、会談をセッティングされることもあります(今回、中国は有効目的で招待していますから、こうした嫌がらせはしていないと思われます)。
相手国内であっても、常に安全が確保できる場所を持っていないと、こうした外交上の駆け引きに振り回されてしまいます。つまりアウェイになることは出来るだけ避ける必要があり、鉄道であれば何らかの対処が可能となるのです。
最近では中国の首脳が特別列車に乗ることは少なくなりましたが、かつて毛沢東氏が文化大革命の狼煙を上げたのは、移動中の特別列車の車内からでした。これも政敵による暗殺を警戒してのことと思われます。
もっとも金氏はかなり合理的な人物とされ、父親の金正日氏とは異なり、国内での移動は頻繁に航空機を使っているようです。しかし、今回の首脳会談は、金政権にとって極めて重要なものですから、やはり従来型の鉄道が選択されたものと思われます。
ちなみに金氏を乗せた特別列車は数編成が用意され、時間をおいて同じような列車が次々と運行されているようです。これは、どの列車に金氏が乗っているのか、悟られないようにするための措置といわれています。