ソフトバンクの孫正義社長が、トランプ米次期大統領と電撃的に会談し、米国への巨額投資を約束しました。あまり報道されていませんが、孫氏がトランプ氏に示した資料の中には、投資のパートナーとして鴻海精密工業の名前があります。これは何を意味しているのでしょうか。少し深読みしてみたいと思います。
孫氏は2016年12月6日、ニューヨークでトランプ次期米大統領と会談しました。孫氏は、500億ドル(約5兆7000億円)を米国に投資し、5万人の雇用を生みだすとトランプ氏に確約しています。
ソフトバンクは、すでに米国の通信会社であるスプリントを傘下に収めており、先日はサウジアラビアと組んで10兆円ファンドを組成したばかりです。今後も継続的に米国市場に投資していく可能性が高いと考えられます。
トランプ政権は場合によっては保護主義に傾き、外国企業に敵対的になる可能性もありますから、今のうちにトランプ氏との関係を構築しておき、ソフトバンクが米国の雇用に貢献しているとアピールするのは、非常に合理的な行動といってよいでしょう。
これに加えて今回の会談にはもっと大きな狙いがあるとの見方もできます。それはアップルとトランプ大統領の橋渡しです。
孫氏がトランプ氏に示した資料の中には、実は鴻海精密工業の名前があります。説明するまでもなく、鴻海はiPhoneの製造を一手に引き受けるメーカーであり、アップルにとって鴻海はなくてはならない存在です。
しかしトランプ氏は、かねてからアップルに敵対的で、製造を国内に戻すべきだという発言も行っています。現実的にそれは難しいとしても、アップルとしてはトランプ政権と全面戦争になるような事態は避けたいでしょう。
孫氏は今回の会談について、米国のスタートアップ企業に積極的に投資をしていくということ以外、何も語っていませんので、45分の会談で何が話し合われたのかは分かりません。しかし資料の中に鴻海の名前があるということは、当然、鴻海も米国の雇用に大きく貢献するというプレゼンを行ったことは間違いありません。
深読みすれば、孫氏は今回の会談で、アップルとトランプ政権の間を取り持ったと解釈することも可能です。これをきっかけに、鴻海が大規模なiPhone製造工場を米国内に建設し、米国政府も支援するといった形になれば、全員がハッピーという解決策になり得ます。
こうした動きに孫氏が深く関与していたということになれば、孫氏の米国での立場は、トップクラスの政治家並みに高まるでしょう。これをテコに、米司法省の判断によって断念した、TモバイルUSの買収を再度、試みることも可能となるかもしれません。
もし、本当ならあまりにも鮮やかすぎる振る舞いですが、果たして、この会談の成果はどのような形で顕在化するのでしょうか。