経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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ドイツの対日感情が悪化している理由

 ドイツのメルケル首相が7年ぶりに日本を訪問しました。安倍首相と首脳会談を行ったほか、天皇陛下とも会見しました。
 首脳会談では、ウクライナ問題などが話し合われ、両国は国際社会の課題に連携して取り組むことで一致しました。非常に友好的で前向きな訪日だったように見えますが、実態は少し異なるようです。

2012年以降、ドイツの対日感情が悪化
 意外なことなのですが、このところドイツの日本に対する印象が急激に悪化しています。BBCがまとめた世界世論調査によると「日本が世界に良い影響を与えている」と考えるドイツ人の割合は、2011年には58%あったのですが、ここ数年で急激に減少し、最新の2014年の調査では28%になっています。

 明確な理由は不明ですが、ドイツ国内の報道を見ると、原発事故に関する日本の情報公開姿勢と歴史認識問題に原因がありそうです。

 ドイツは環境政党である緑の党が一定の議席を持っていることなどからも分かるように、環境問題に関心が高く、政策的にも脱原発を進めています。ドイツは、原発事故に対する日本政府の情報公開姿勢にかなり不満を持っているようで、ドイツ国内のメディアでは、しばしば日本に対する批判記事を目にします。

 また、歴史認識問題についても、ドイツは日本に対して厳しい見方をしています。ドイツも日本と同じく第二次大戦の敗戦国ですから、日本の一連の歴史認識問題の発言によって、この問題が蒸し返される可能性があることを快く思っていないようです。

 今回メルケル氏が訪日にあたって、わざわざ朝日新聞で講演を行ったのは、日本政府に対する牽制球だと言われています。

 日本が財政再建に対してあまり積極的でないことも、これに拍車をかけています。通常、中央銀行が他国の中央銀行の政策を批判することはないのですが、ドイツ連銀は、名指しで日銀を批判しました。
 ドイツは財政再建に対して積極的なことで知られており、今年度の国債発行額は実質でゼロとなっています。ドイツは過大な政府債務は、世界経済のリスク要因と認識しており、政府債務に無頓着な日本に対して苛立ちを強めているわけです。

 今回の訪問では、このあたりの問題について日本に解決を促す目的があったというのが大方の見方です。

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相手が何を主張しているのかが重要
 ここに書いた話は、あくまでドイツ側から見た話であり、日本がこれらを無条件に受け入れる必要はないでしょう。しかし、日本は外国への対処がかなり下手な国であるのも事実です。

 戦後しばらくの間、日本人は基本的に日米関係だけしか見てきませんでした。とにかく米国の言うことに従っていればよいということなかれ主義が蔓延していたわけです。しかし、戦略的な決断としての対米追従であれば、それも一つの方法だったのかもしれませんが、実際はそうでもなかったようです。

 このところ日米関係はかなりギクシャクしているのですが、米国に対してどう付き合えば国益を最大化できるのかというよりも、米国に対する感情的な反発の方が強い印象です。つまり、これまでは利害が一致しており、米国がニコニコしてくれていたので、仲良くしていたという面が大きかったわけです。

 その証拠に、中国という一種の仮想敵国が登場し、日米関係が複雑になってしまった今、米中関係を考慮に入れた上で、米国とどう付き合ったらよいのかという議論は日本ではほとんど行われていません。

 一方、これまで日米関係にばかり関心を寄せてきたせいか、欧州については多くの日本人が無頓着です。しかし、現実の国際社会はここ10年で大きく様変わりしています。米国は従来ほど世界の問題に関わらなくなりましたし、一方でドイツの国際社会での発言力は大きくなっています。

 国際社会は結局のところ、経済力と軍事力、そして政治力によるパワーゲームにしか過ぎません。現実の力関係を考えると、米国がダントツの覇権国家であることに異論はありませんが、準覇権国家としてのドイツも決して無視できない存在になっています。

 もしドイツの対日感情が悪化しているのだとすると、こうした影響は中長期的にボディーブローのように効いてくることになります。わたしたちはもう少しドイツの世論にも関心を持った方がよさそうです。

 重要なのは私たちが情緒的にどう感じるかではなく、相手が何を主張していて、それに対してどう論理を組み立てた方が、日本の国益になるのかという点です。この部分をおろそかにしてしまうと、交渉のスタートラインにすら立てない状態に陥りかねません。

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