大塚家具の経営権をめぐる内紛が激しさを増しています。同社は3月下旬に株主総会を控えているのですが、父と娘によるプロキシファイト(委任状争奪戦)の様相を呈してきました。
嗜好の変化と日本人の購買力低下が業績低迷の原因
大塚家具は、創業者である大塚勝久氏が一代で築き上げた家具販売チェーン店です。家具の世界は業界の体質が古く、価格が不透明といわれてきました。
大塚氏は、価格を透明にするとともに、店員が懇切丁寧に接客し、トータルで家具を販売するというスタイルを確立し、同社を大手企業に育て上げました。その手腕は高く評価してよいでしょう。
しかし、顧客の好みは時代で変わってくるものです。同社の営業スタイルは若年層には合わなくなり、徐々に客足が遠のいていきます。長期の不調が続き、日本の家計の購買力が低下してきたことも大きく影響したでしょう。
同社の業績は低迷し、2009年には勝久氏の娘である久美子氏が代表取締役に就任することになりました。ちょうどこの時期、イケアが日本進出を果たしていたことは非常に象徴的です。
久美子氏は、単品買いをする顧客を重視し、顧客数で売上げをカバーする戦略に転換しました。同社の売上げは下げ止まったものの、その後目立った回復を見せることはできませんでした。
業を煮やした勝久氏が2014年7月、久美子氏を辞任に追い込みますが、2015年1月には、再び久美子氏が勝久氏を辞任させ、代表に返り咲いています。
久美子氏は、社外役員の積極登用や現在40円となっている配当を倍額の80円に増額するなど、コーポレート・ガバナンスを重視した経営方針を打ち出しています。つまり利益還元を重視する株主に対してアピールしているわけです。
一方、勝久氏は社員からの支持があることを強調していますから、こちらは、従来型の経営の継続を望む株主に対してアピールしているわけです。
久美子氏が有利に見えるが・・・
久美子氏が提唱しているのは、いわゆるグローバルスタンダード的なガバナンスですから、常識的に考えれば、久美子氏の方が有利に見えます。
現在、推定で10%ほどの株式を所有していると思われる米国の投資ファンド「ブランデス・インベストメント・パートナーズ」が久美子氏に付けば、久美子氏は一気に主導権を握れるでしょう。
しかし、必ずしもそうとはいえない部分があります。それは久美子氏の持ち株です。
久美子氏は資産管理会社「ききょう企画」を通じて同社株を保有しているのですが、勝久氏から株式を譲り受ける際に、資金がなかったことから、実質的に勝久氏から資金を借りている状態が続いています。
久美子氏は、これを銀行のローンなどに切り替え、同社を完全に手中に収めようとしていますが、同社の経営権をめぐっては、勝久氏と久美子氏との間で裁判になる可能性もあります。
もうひとつは、久美子氏の実績です。確かに勝久氏の手法が限界に来たのは事実ですが、久美子氏も目立った業績を上げられていません。久美子氏が主張する路線は、イケアなどと真正面からぶつかる可能性が高く、ほんとうに対抗できるのか疑問視する声もあります。
経営戦略的には勝久氏が提唱する高級路線にも一理あると考える人は少なくないはずです。また、一代でこれだけの企業を育てた実績と手腕は圧倒的といってよいでしょう。
ともあれ、同社は株式会社ですから、最終的に誰を社長にするのかを決めるのは株主です。大株主である勝久氏と久美子氏が対立している以上、その他の株主がどう判断するのかで、結論が決まってくるわけです。