経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. ビジネス

キーエンスの平均年収が1300万円から考える営業という仕事の本質

 日本を代表する計測機器メーカーであるキーエンスの創業者、滝崎武光氏が、会社設立40周年を機に引退しました。
 同社は、超高収益企業であり、社員の年収もズバ抜けて高いことで知られています。わたしたちは、いろいろな意味で、この会社から多くを学ぶことができます。

営業マンの個性は要らない
 キーエンス社員の年収は、スバ抜けています。平均年収は1300万円といわれており、40歳になると1500万円を突破します。なぜこのような高給が払えるのかというと、それは会社が儲かっているからなのですが、同社の高収益の秘密は営業にあるといわれています。

 キーエンスはメーカーであるにもかかわらず、半数以上が営業職の社員で占められています。同社の営業力が強いのは、営業を徹底的に科学しているからです。

 同社はすべて自社の営業マンが直接顧客を訪問し、顧客が抱えている課題について聞き出します。その際、どのような質問を、どのようにすれよいのかまでマニュアル化されています。顧客が抱える課題を徹底的に洗い出し、それがハッキリした場合には、顧客の予算内でそれを解消できる提案を行うわけです。

 提案営業においても、1回目の訪問では何を説明し、2回目ではどんな営業トークをするのかなど、事細かく決められているそうです。つまり、うまくいくということが判明したやり方については、徹底的にマニュアル化、汎用化し、全社員が同じやり方を踏襲します。

 同社の営業は、極端に言えば、営業マンの個性を徹底的に殺す仕組みなわけです。
 こうした同社の営業手法については批判的に言う人もいますし、一部の社員は息苦しいと感じているという話もあります。
 ここではその是非は問いませんが、この会社の実績から分かることは、営業という仕事は実は汎用化が容易な仕事であるという点です。

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営業の仕事はやがて人工知能に置き換わる
 営業という仕事は、勢いでこなすものというイメージがあります。口八丁、手八丁で強引に製品を勧めないと営業成績は上がらないと考えている人は少なくありません。
 「私は営業に向いていないので」というセリフをよく耳にしますが、営業には向き不向きがあると考えている人も多いでしょう。

 しかし、キーエンスの例を見てみますと、必ずしもそうではないことが分かります。どのような時に商品が売れるのかについては、かなりの部分まで理論化することができ、それに従って行動すれば、誰でも、商品を売ることができるわけです。

 営業で抜群の成績を残している人は、多くの場合、強引な押し売りタイプの人ではありません。顧客のパターン化や営業トークのパターン化をうまくこなすことができた人が、卓越した営業マンになっているのです。

 日本ではとかく精神論が先行しがちですので、こうした手法はあまり普及していなかったのですが、最近はそうも言っていられくなくなりつつあります。その理由は、人工知能が急速な勢いで発達しているからです。

 人工知能を使えば、優秀な営業マンがどの程度の頻度で顧客を訪問し、どのようなメールを送っているのかなどを徹底的に分析することができます。そして、もっとも優秀な営業マンのどこが優れているのかを学習することが可能となります。

 営業マンが顧客にメールを送ろうとすると、システムの人工知能から、「その文面ではダメです。このように書き換えてください」と指示が来るようになるのはもはや時間の問題でしょう。さらに人工知能が発達すれば、営業マンそのものも必要なくなってしまうかもしれません。

 そこまで極端ではなくても、人工知能を活用すれば営業成績が上がるということになると、その先はどうなるでしょうか?ただ指示を受けて行動するだけの営業マンに配分されるお金は減るでしょうし、一方、人工知能にノウハウを提供できる営業マンや、人工知能を開発できる人材には、高い給料が支払われることになります。

 つまり今後は、知恵を持ち、それを体系化できる人に富が集まる時代になるということになるわけです。

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