アベノマスクや給付金の再委託など、政府調達に関する問題が次々と指摘されています。政府調達は多くの人にとって馴染みのない分野であり、何となく不透明であることは分かっていても、何が問題なのかスッキリしない人も多いと思います。今回はアベノマスクを例に、政府調達の問題点について考えてみたいと思います。
原則として入札を実施しなければならない
マスクを2枚国民に配るという政策に意味があるのかという話は、とりあえず横に置いておき、アベノマスクにおける手続き上の最大の問題点は、随意契約と呼ばれる形式で調達が行われたことです。
政府による物品やサービスの購入には税金が使われますから、調達の方法については会計法などで厳格に定められています。会計法では、政府が調達を行う際には、原則として「競争に付す」ことを求めています。具体的には、複数の業者に同時に価格を提示させ、安い方を採用するという「競争入札」という手法です。
しかしながら、物品やサービスの中には、どうしても競争入札になじまないものもあります。こうした調達については例外的に随意契約という方法が認められています。特定の事業者しか必要な物品やサービスを提供していない場合や、緊急性がある場合、極めて少額な調達の場合には、特定の事業者に意図的に発注する随意契約を行ってもよいとされています。
ここで重要なのは「競争入札」が原則であり、随意契約は例外であるという点です。
随意契約は競争を行わずに調達する方法なので、政府と事業者の間に癒着が生じやくなります。また、不適切な関係が存在しなくても、競争がない場合には、価格が事業者側の「言い値」となり、不当に高い買い物を政府が強いられる可能性もあります。
したがって随意契約を実施する場合には、なぜその調達を随意契約で行うのか、理由を明示する必要があります。逆に言えば、よほどのことがない限り随意契約にするべきではありません。
随意契約にしなければならない必然性が乏しい
では、今回のアベノマスク調達が随意契約で行われたのは適切でしょうか。マスクというのは汎用的な製品であり、特定の事業者しか作れないものではありません。普通に考えれば、一般競争入札で調達できる物品といえます。
そうなってくると、会計法上の解釈として、緊急性が高いことくらいしか理由は見つかりません。しかしながら、本当に随意契約でなければ時間がかかったのかについては疑問が残ります。政令では10日間以上、入札の情報を公告することが義務付けられていますが、緊急性を要する場合には半分に短縮できるという定めがあります。
この規定を使えば、入札であっても大幅に期間を短縮できますし、そもそもに随契契約にしたからといって、調達の手続きを一気に省けるわけではありません。あらかじめ仕様書を作成し、複数事業者から見積もりを提出させた上で、予定価格を事前に算出するなど、入札に準じた作業が必要となります。1日を争うような事態でもない限り、緊急性だけを理由に随意契約にすることには無理があると考えた方が自然でしょう。
今回、政府は契約の相手方となる企業名の公表を渋りましたが、これも大きな問題です。政府は随意契約の透明性を確保するため、原則として契約相手先、契約金額、随意契約にした理由を公表するルールを定めています。公表を拒むことは原則としてあってはなりません。
一連の経緯を考えると、アベノマスクの調達はかなり不透明なものであると言わざるを得ません。これでは国民からの信頼が得られないのは当然のことでしょう。