経団連(日本経済団体連合会)が2019年の春闘に際し、政府からの要請で賃上げを実施するという、いわゆる「官製春闘」を脱却する方針を固めました。これまで何かと事なかれ主義が目立っていた経団連としては大きな変化ですが、昨年5月に会長に就任した中西宏明氏の影響が大きいようです。
就任早々、会長室にパソコンを導入
安倍政権はデフレ脱却を実現するため、春闘において企業側が労働側からの賃上げ要求に応じるよう、経済界に対して強く要請してきました。
本来、賃上げは企業と労働者が交渉して決定すべきものであり、政府が具体的な数字を提示してまで、労使交渉に口出しするのは資本主義国としては異例の事態といってよいでしょう。しかし政府からの要請が既成事実となり、経団連側もそれに応じる姿勢を示していたことから、メディアからは「官製春闘」などと揶揄される状況になっていました。
しかし経団連は、2019年の春闘において政府からの要請を受け付けない方針を固めました。賃上げにそのものには前向きなスタンスですが、政府からの要請で賃上げを行うという形にはしない方針です。
経団連のスタンスが大きく変わったのは、昨年5月に新しく会長に就任した中西宏明氏によるところが大きいと考えられます。中西氏は、就任早々、会長の執務室にパソコンがないことに驚き、すぐにパソコンを用意させるなど、改革に前向きな人物として知られています(この時代においてパソコンがなかったことはITが専門の中西氏にとっては、かなりの衝撃だったようです)。
春闘についても、経済誌とのインタビューにおいて「もともと指示されからといって賃上げをするという発想はない」「経済統計的な発想で発想で反応するわけでもない」と、財界としてのスタンスを明確に示しています。
かつて経団連会長は財界総理と呼ばれていたが
かつて経団連会長は財界総理と呼ばれ、国内政治に大きな影響を及ぼしてきました。実際、歴代会長を眺めて見ると、石坂泰三(東芝)、土光敏夫(東芝)、稲山嘉寛(新日鉄)、斎藤英四郎(新日鉄)、平岩外四(東京電力)、豊田章一郎(トヨタ自動車)など、そうそうたる顔ぶれです。
しかし最近の経団連は主体的な活動ができず、一部から存在意義をなくしていると指摘する声もありました。踏み込んだ発言を厭わない中西氏は、あまりにも小粒になりすぎた近年の財界人の中では珍しい存在といってよいでしょう。
ここ数年、経団連の加盟企業の顔ぶれも大きく変わっています。グーグルやアップルの日本法人はすでに会員ですが、2018年12月には、アマゾンの日本法人とメルカリがあらたに加わりました。新しい企業が加わることで、経団連の体質や提言内容も徐々に変わってくると予想されます。
経団連はあくまで経済団体ですから、その主張は企業の利益を代弁したものとなります。しかしながら、資本主義社会の原理原則として、企業側が自らの利益のために政策を提言するのは当然のことです。主張する内容の是非はともかくとして、経団連が自らの意思で積極的に動き出したことは評価してよいでしょう。