加谷珪一の年金教室 第7回
インフレになると年金生活者が苦しくなるという話を聞きますが、これはどういうことなのでしょうか。またこれを調整する制度はあるのでしょうか?
物価の上昇に合わせて年金額も上昇していくが・・・
通常、物価が上昇していくと賃金もそれに合わせて上昇していきます。賃金の上昇スピードが物価に比べて遅いこともありますが、最終的には物価と賃金はある程度比例することになります。
しかし、年金の場合には、決められた金額が支給されるだけですから、インフレで物価が上昇すると、受給者の生活が苦しくなってしまいます。
そこで現行の公的年金には、物価や賃金に合わせて年金額を改定する「スライド制」が導入されています。
日本の年金は現役世代が高齢者の生活を負担する制度ですから、物価の上昇率だけで年金水準を調整することはできません。現役世代の負担が過大にならないよう、賃金の上昇率についても考慮に入れる必要があります。年金の継続性を念頭に、物価をベースに賃金についても加味しながら年金額を改定しています。
2021年4月からは、賃金変動をより重視する形に改定ルールが見直される予定です。これは日本の労働者の賃金がなかなか上昇しないことを受けた措置と考えられます。
賃金が上がらず、物価だけが上昇した場合には、年金受給者の生活は苦しくなってしまいますが、これは現役世代にとっても同じことなので、制度上、やむを得ないことでしょう。
マクロ経済スライド制の狙いは給付額の抑制
しかしながら、年金の金額を調整する制度はこれだけではありません。マクロ経済スライド制という、少々、やっかいな制度があり、これによって年金額が下がってしまう可能性もあります。
マクロ経済スライド制は2004年に導入されたものですが、名称だけを聞くと、経済状況に応じて年金額を調整するためのものというイメージを持ってしまいます。実際には、人口動態の変化に合わせて、年金の給付を抑制するための制度と考えてよいでしょう。
本コラムでは繰り返し説明していますが、日本の年金は現役世代が高齢者を支えるという世代間扶養の方式です。したがって現役世代の人数が減少すると制度の維持が困難になるという特徴があります。
現役世代の人数が減った分だけ、高齢者の年金を減らすことで制度を維持しようというのがマクロ経済スライド制の基本的な考え方になります。
もっとも、この制度を導入して以後、日本経済はずっと低迷が続いています。給付額を引き下げてしまうと高齢者の生活を直撃しますから、現実には1度しか発動されていません。
しかしながら、年金財政が逼迫していることから、そろそろ制度の再発動が行われるとの見方が強まっています。近い将来、この制度が発動され、減額が実施される可能性は高いとみてよいでしょう。