日銀がいよいよ量的緩和策の軌道修正に入るのではないかとの観測が高まっています。7月30日と31日に行われた金融政策決定会合では、大きな政策変更はありませんでしたが、事実上、金利上昇を容認する形となりました。今年の秋にも何らかの見直しが行われる可能性があります。
現実的にはすでに量的緩和策からは撤退しつつある
量的緩和策が発動されてからすでに5年以上が経過しました。
当初は物価が順調に上昇し、株高も進みましたが、その後、物価上昇のペースは鈍化。日銀は何度も物価目標の達成時期について修正を迫られました。日銀は4月から、物価目標の達成時期見通しの提示をやめてしまいましたが、今回の金融政策決定会合でも、物価上昇率の見通しが引き下げらたので、基本的な状況は改善していません。
一方で、米国はすでに量的緩和策を終了しており、金利正常化フェーズに入っています。欧州も今年中に出口戦略に舵を切る可能性が高まっています。米国経済は、トランプ政権による貿易戦争で先行きが不透明になっているものの、足元の経済指標は良好ですから、米国の金利はさらに上昇するでしょう。
このまま日銀がマイナス金利を政策を続けた場合、世界的な金利動向との乖離が激しくなり、為替などに悪影響が及ぶ可能性が高まってきます。実際、債券市場ではジワジワと金利が上昇しており、7月26日には長期金利が1年ぶりに一時、0.1%を突破しました。
日銀は国債の買い入れペースを当初の80兆円から大幅に引き下げており、国債購入という部分においては、事実上、量的緩和策から撤退した状況にあります。形式的にも量的緩和策を続ける意味がなくなっているというのが現実とみてよいでしょう。
脱デフレ宣言をしてしまうというプランも
しかしながら、成果がないまま量的緩和策から撤退するというわけにはいきませんから、軌道修正するには、何らかの理由が必要となります。
そこで急浮上しているのが「脱デフレ」宣言です。
物価動向は相変わらず鈍いままですが、一部では商品の値上げや人件費の高騰が顕著となっており、物価上昇が進んでいます。これをうまく利用し、政府が「脱デフレに成功した」と宣言することで、堂々と量的緩和策を正常化するというプランです。
安倍政権としても、アベノミクスは成功したと喧伝できますから、悪い話ではないでしょう。
ただ、表面上、デフレを脱却したといっても、日本経済の根本的な状況が変化したわけではありません。
米国経済に引っ張られて輸出が好調なうちは大丈夫ですが、米国の輸出が減少した場合、景気が一気に冷え込む可能性があります。一方で、人手不足や原材料費の高騰から物価の上昇が予想外に進み、金利の正常化がこれに拍車をかける可能性も否定できないでしょう。
仮に量的緩和策の軌道修正に成功したとしても、日銀にとっては、むしろそこからが正念場ということになります。