加谷珪一の超カンタン経済学 第23回
前回は物価が変動する需要面にどのような影響が及ぶのかについて説明しました(AD曲線)が、今回、取り上げるのは供給面に対する影響です。
企業の生産活動は物価から大きな影響を受けていますが、AS曲線は物価の変動がモノやサービスの供給にどのような影響を与えるのかについて示したグラフです。
企業は実質賃金で雇用を調整する
企業にとって、働者の賃金は低ければ低いほど好都合です。賃金が低いと安価なコストで大量の労働者を雇うことができるからです。このため企業は物価が安いと、たくさんの労働者を雇って生産を拡大しようとします。
では企業は、賃金が安いか高いかをどのように判断するのでしょうか。
賃金が前年より上がっていたとしても、物価の上昇がさらに大きければ、企業にとって労働者の相対的な賃金は安くなります。物価が上がっているのなら、製品の価格に転嫁することでより多くの利益を稼げるからです。したがって企業は、名目の賃金ではなく、実質賃金の動向で雇用を決めると考えることができます。
実質賃金が増えれば企業は雇用を削減し、実質賃金が減れば企業は雇用を拡大します。つまり実質賃金と雇用の間には逆相関があるわけです。
では雇用と生産にはどのような関係があるでしょうか。
企業が雇用を増やせば一般的には生産が伸びます。生産が伸びればGDPは増えますから、雇用の増加はGDPの成長要因ということになります。
物価が上がると生産を増やそうとする
以上の関係を整理すると、物価上昇→実質賃金の下落→雇用の増加→GDPの増加という流れが見えてきます。つまり物価が上昇するとGDPは増え、物価が下落するとGDPは減少します。この関係をグラフにしたのがAS曲線です。
AS曲線は上記の関係から右肩上がりの形となりますが、これは需要を示しているAD曲線とは逆になっています。つまり、価格が変動する需要側と供給側は逆に動きが生じますが、最終的に労働市場を通じて需要と供給がバランスし、最適な物価とGDPが決まるということになります。
物価が上がると雇用が増えるという関係は、経験則的によく知られており、この経験即を元に導き出されたのが、フィリップス曲線です。
フィリップス曲線は、失業率と物価の関係を示したもので、失業率を横軸に、物価を縦軸にすることが多くなっています。
物価が上がると景気が拡大し、GDPが増えて失業率も減るという流れです(あるいはGDPが増えると失業率が減って物価も上がる)から、グラフの形状は左肩上がりとなります。フィリップス曲線についてはまた別の回で解説します。
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