加谷珪一の投資教室 実践編 第2回
株式投資をしている人でウォーレン・バフェット氏を知らない人はいないでしょう。詳しく知らなくても、名前くらいは聞いたことがあるはずです。
バフェット氏は、世界でもトップクラスの投資家ですが、賢人と呼ばれており、無理をしない堅実な投資を行う人物として知られています。この話は本当なのでしょうか。
リスクのないところに利益はない
バフェット氏は、長期的に利益をもたらす優良銘柄を選び抜いて投資しており、これが、大きな富をもたらすと一般的には理解されています。日本にもバフェット氏のファンは多く、彼等は、優良銘柄を長期的視点で買えばバフェット氏のように大きな利益が得られると考えているようです。
しかし、いわゆるバフェット氏のファンと呼ばれる人で、実際に大きな資産を築いたという話を筆者はほとんど聞いたことありません。
筆者の職業は経済評論家ですが、億単位の資金を株式に投じる個人投資家でもあります。他の個人投資家と多少交流もありますが、少なくとも筆者の周囲にはそのような人はひとりもいないのが現実です。
バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイのポートフォリオを見ると、コカコーラ、アメリカンエキスプレス、ウェルスファーゴ(米国の地銀大手)など超優良企業の名前が並んでいます。
株価チャートを見れば一発で分かりますが、こうした超優良銘柄の値動きは安定しているものの、基本的にあまり儲かりません。このような優良企業だけへの投資では、バフェット氏が実現するような巨額の利益は得られないのです。
ではなぜバフェット氏だけが大きく儲けることができるのでしょうか。優良企業にだけ投資をするというバフェット氏のポートフォリオは嘘ではないので、儲かる理由はただ一つ、バフェット氏が高いレバレッジをかけているからです。
バフェット氏は、借金をして手元資金よりも大きな金額を投資しています。つまりバフェット氏は高いリスクを取っており、これがバフェット氏の驚異的リターンの源泉となっています。
筆者は別の意味でバフェット氏を尊敬している
バークシャー・ハサウェイは、単なる投資会社ではありません。傘下に保険会社や鉄道会社、エネルギー会社などを持つ一種のコングロマリットです。特に保険会社を所有していることの意味は大きいでしょう。
保険会社は先に保険料を受け取り、その中の一部を保険金として支払うというビジネス・モデルです。このため、手元に巨額の現金を確保できるという特徴があります。バークシャーは金融機関として、このキャッシュを最大限活用し、低金利で銀行などから資金を調達しています。
借金によるレバレッジを最大限効かせるなら、投資する銘柄は優良で安定しているものが望ましいでしょう。この絶妙な組み合わせによって、バフェット氏は優良銘柄にだけ投資をしながら卓越したパフォーマンスを出せるのです。
バフェット氏のファンと呼ばれる人の中には、この事実を見落としてしまっている人がいます。というよりも、情緒や願望が邪魔をして真実が見えなくなっているのかもしれません(情緒や願望がウソの情報を作り出してしまうメカニズムについては過去記事「ホンモノのお金持ちは質素だという話を耳にするけれど・・」を参照してください)。
投資の世界には「高いリターンを得るためには、高いリスクを取らなければならない」という絶対的なルールがあります。バフェット氏といえども、そのルールを超越することはできません。
この話はバフェット氏の業績を否定するどころか、むしろ逆だと筆者は考えます。保険会社の仕組みをうまく活用して、合理的にレバレッジをかけるという彼のやり方はまさに革命的であり、筆者はその点においてバフェット氏を深く尊敬しています。