経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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ヤマトが荷物の取扱量抑制を検討。ネット通販業界に激震

  宅配便最大手のヤマト運輸が、荷物の取扱量抑制の検討を開始したことが話題となっています。アマゾンを中心にネット通販の荷物が急増しているのは事実であり、現場が悲鳴を上げていることは間違いないでしょう。こうした状況を前に企業として何らかの対応を取ることは当然のことです。

 しかしながら、ネット通販事業者のサービス拡大による荷物の急増は、単純な労働問題にとどまる話ではありません。
 ネット通販と物流の業界には、これまでになかったイノベーションの波が押し寄せており、AI(人工知能)やシェアリング・エコノミーの発達によって、人をほとんど投入することなく荷物を配送できるようになる可能性すらあります。この問題について議論する際には、もう少し広範囲な視点が必要でしょう。

ヤマトが値上げを実施するとネット通販事業者どうなる?
 宅配便の取扱量は全国で約38億個と過去5年で約17%増加しました。佐川急便がアマゾンの取扱いをやめたこともあり、ネット通販からの依頼はヤマトに集中。同じ期間における同社の取扱量は3割も増えています。
 同社の配達要員が昼食を取れなかったり、夜間の時間指定配達に手間取り、帰宅が遅くなるといったケースが増えているそうです。こうした状況を受け、ヤマトは取扱量抑制の検討を始めたわけです。

 とりあえずは、作業繁雑化の大きな要因となっている時間指定の基準を見直すことが検討されているようです。時間指定の見直しで済むようであれば、荷物の総量は変わりませんが、それだけでは状況を改善できない可能性が高いと考えられます。そうなってくると、アマゾンなどに対して値上げを通告し、取扱量そのものを減らす可能性が出てきます。もしヤマトが正式に値上げに踏み切った場合、業界に与える影響は非常に大きなものとなるでしょう。

 一方、ネット通販側としては、値上げを受け入れず、他の事業者もしくは自社配送に切り替えるといった選択肢があります。これで対応できない場合には、値上げを受け入れ、利用者に価格を転嫁するか、サービス水準を下げることになります。

 ネット通販や物流の業界に大きなイノベーションがなければ、値上げを受け入れる形に落ち着く可能性が高いのですが、今の状況は必ずしもそうではありません。物流業界には、これまで経験したことのない水準のイノベーションが押し寄せており、テクノロジーによって問題を解決しようというベクトルが働く可能性があるからです。

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もっと幅広い視点での議論を
 まず最初に考えられるのは、やはり自社配送の拡大でしょう。すでにアマゾンは有料会員向けに、アプリを通じて注文された商品を1時間以内に配送する「プライムナウ」というサービスを行っています。
 量販店大手のヨドバシカメラも、ネットで注文した商品を最短2時間半で届ける「ヨドバシエクストリーム」というサービスを開始しました。ディスカウント・ストア大手のドン・キホーテも同様のサービスを始めています。各社に共通しているのは、運送会社に依存せず、自社の配送要員を使っているという点です。

 確かに自社の配送要員を使うと大幅なコスト増となりますが、その分、きめ細やかなサービスが可能となり、顧客の囲い込みにつながります。運送事業者に高い委託料を払うくらいであれば、自社配送を積極的に進めた方が得策と判断する可能性は十分にあるでしょう。

 しかも近年、AIの技術が急速に発達しており、ビッグデータと組み合わせることで、従来よりも圧倒的に効率良く配送できる可能性が見えてきています。これに加えてシェアリング・エコノミーが普及していることも、こうした動きを後押しする可能性があります。

 すでに米アマゾンは、アプリを使って不特定多数の人に配送を依頼するシステムを検討しています。誰が持ってくるのか分からないという不安はありますが、これまで運送事業者が独占していた配送という仕事が、すべての人にオープン化される可能性もあるわけです。

 さらに先を見据えれば、自動運転車の普及によって物流業務の大半が無人化されるのも時間の問題です。宅配ボックスを高度化したものを普及させれば、人手を介することなく、荷物の受け取りができるようになるでしょう。しかもこうした動きはここ10年の間に一気に実現化しそうな勢いです。

 ネット通販はもはや社会の基礎となるインフラであり、これをどう整備していくのかは国民的課題です。労働者の保護は当然のことですが、「サービス過剰で配達要員が大変だから、これ以上便利なサービスを求めるのはやめよう」という一方向からの視点だけではなく、イノベーションを見据えた、もっと包括的な議論が必要でしょう。

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