政府は2015年1月14日、過去最大規模となる2015年度予算案を閣議決定しました。多くのメディアでは、歳出拡大が止まらないという論調ですが、予算の中身をよく見ると、少し違った風景が見えてきます。政府がとうとう財政再建に向けて舵を切り始めた兆候が見て取れるからです。
国債の発行額は大きく減少
一般会計の総額は96兆3420億円で、前年度より4596億円増加しました。高齢化によって社会保障費が増えたことが主な要因です。これまで日本政府の予算は、社会保障費と公共事業費の増加でひたすら拡大を続けており、税収でカバーできない分は国債、つまり政府の借金でまかなうという構図でした。
今年度の予算も基本的に同じ構図なのですが、例年とは様子が異なっています。消費税を増税したことや、企業の業績向上などによって、税収は2014年度より4兆5240億円増加していますが、税収の伸びほどに歳出は増えていないのです。
結果として、国債の発行額は4兆3870億円ほど減少しました。また、国債の依存度は、前年度は43%もありましたが、今年度は38.3%に大きく低下しています。
つまり今年度の予算は、規模の拡大は続いているものの、財政再建を強く意識した中身になっているわけです。これは、際限のない拡大が続いてきた過去の予算編成の経緯を考えると、小さくない変化です。
こうした方向性は、分野ごとの予算内容を見ても明らかです。歳出のうち、最も金額が多いのは社会保障費ですが、この費用の大部分は裁量で決めることができません。年金や医療への支出は、高齢化が進むと自動的に増えてしまうからです。したがって、社会保障費だけは、前年比で3.3%の増加となっています。
しかし、それ以外の項目は、2%増となった防衛費以外は横ばいか、前年比マイナスです。公共事業は前年とほぼ同額の約6兆円にとどまっているほか、文教費や地方自治体へ分配される地方交付税交付金はマイナスとなりました。
財政問題が深刻化していることの裏返し
今年は、個人消費の低迷などから、昨年よりも経済情勢が厳しいといわれています。その中にあって、景気対策よりも財政再建を優先した予算を組んでいるということは、それだけ日本の財政問題が深刻化していることの裏返しともいえます。
日本政府はこれまでお金が足りない部分はすべて借金でカバーしていましたから、国債の残高は900兆円を超える見込みとなっています。国債を発行した場合には引き受けた投資家に対して利子を支払う必要があるのですが、96兆円の予算のうち10兆円は利払い費用に消えています。
今のところ、日銀の量的緩和策によって、金利は低く抑えられていますが、いつまでも量的緩和策を続けるわけにはいきません。量的緩和策が終了すると金利が上昇する可能性が高くなってきます。それまでの間に財政再建の道筋をつけておかないと、金利の上昇で利払いが増え、財政を圧迫する結果になりかねません。
不景気の最中に、国債の発行を最小限にしたことには、こうした背景があるわけです。
日本政府は2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという公約を掲げています。しかし、消費税を10%に増税しても、今のレベルの歳出が続いた場合、この目標の達成は難しいといわれています。
これを実現するためには、景気を回復させて税収を増やすことはもちろんですが、歳出の削減も同時に進めていく必要があります。今回の予算は、日本の財政再建の第一歩ということになるわけですが、これがうまくいくのかは、結局のところ時間との勝負になるでしょう。