経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

米国企業の女性支援策はすでにここまで来ている

 現在、日本では女性の登用が大きなテーマとなっていますが、かなり以前から女性の登用が進んでいる米国では、驚くべき施策も登場しています。優秀な女性社員を引き止めるため、卵子凍結費用を企業が補助するというのです。

アップルとフェイスブックの卵子凍結費補助
 米アップル社は先日、優秀な女性人材を確保するため、希望する女性社員に対して卵子凍結費用を補助することを決定しました。同様の制度はすでにフェイスブックが導入しています。アップル社では、来年1月から、正社員とパートタイムの女性従業員に対し、卵子の凍結と保存のための費用として最大2万ドル(約212万円)を支給することになります。

 日本と比較すると米国はかなり以前から女性の登用が進んでいるのですが、実際に結婚・出産となると、女性の負担が大きいという状況はそれほど変わりません(ベビーシッターなどのサービスは充実していますが)。
 一方、ビジネスにおけるキャリア形成を考えると、20代は非常に大事な時期です。というより、徹底的な競争社会である米国では、20代の時にまさに死に物狂いで仕事に打ち込んで成果を上げないと、その後の昇進を獲得するのは難しいのが現実です。

 そうなってくると、20代は仕事に邁進し、ある程度キャリア構築のメドが立ってくる30代以降に出産したいと考える女性は少なくないわけです。卵子は年齢が若い方が妊娠確率が高いといわれますから、卵子の凍結保存は、仕事と出産をうまくコントロールするひとつの方法というわけです。

 女性社員からの反応はおおむね好評ということですが、一部からは、会社が仕事を最優先するよう、間接的に社員に強要することになるとして否定的な考えを示す人もいるそうです。ただ現実問題として、米国のIT業界は常に激しい競争環境にさらされており、ゆったりと仕事をするという雰囲気はまるでありません。

 米国のIT業界は、24時間食べ放題のカフェテリアや託児所、ジム、音楽スタジオなど、豊富な設備を従業員に提供しているところが多いことでも知られています。一見、こうした光景はなごやかに見えますが、言い方を変えれば、会社は社員に対して、24時間戦闘状態でいるよう、要請していると解釈することもできます。

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グローバルに戦うことが意味すること
 かつてマイクロソフト社が、結婚している社員は昇進が遅くなる可能性があると表明して問題になったことがありました。また、米ヤフーのマリッサ・メイヤーCEOが、生産性が落ちるとして、社員に在宅勤務を禁止する通達を出すという出来事もありました。

 もちろんひとくちに米国といってもいろいろな地域や文化があります。アップルは全米でもっとも豊かで、かつリベラルなカリフォルニア州のシリコンバレーに位置しています。
 しかし保守的な地域の会社では、卵子の冷凍保存などとんでもない、というところもあるでしょう。したがって、アップルのような取り組みは必ずしも普遍的なものとはいえないと思います。

 しかし重要なのは、ソニーやパナソニックといった日本の大手電機メーカーが競争しようとしている米国のグローバル企業は、こうしたことを平気でやってのける人たちの集団だということです。各国のグローバル企業は、今後も、優秀な社員の引き止めにあらゆる手段を行使してくる可能性が高いと考えるべきでしょう。

 安倍政権では成長戦略の一環として女性の活躍や日本企業の国際競争力復活を掲げていますが、現実のグローバル社会は、このように相当シビアな世界です。

 卵子の凍結が妥当なのかはわかりませんが、かなりの覚悟を決めないと、こうした企業と互角に戦うことはできないでしょう。日本人はこうしたマーケットで戦っていくのか、それともグローバルな競争から下りて、勇気を持って貧しい社会を受け入れるのか、選択する必要に迫られているのかもしれません。

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