経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

加谷珪一の投資教室 第8回

 財務諸表はざっと見ただけでも、様々な情報を入手することができます。日本を代表する企業であるトヨタ自動車の財務諸表を眺めてみましょう。

 財務諸表を目にした時、最初にチェックすべきなのは、売上高と営業利益の推移であることは以前に説明しました。次にチェックすべきなのは、全体の資産額と自己資本の額です。ファンドマネージャーやアナリストなど、いわゆる投資のプロも同じような見方をしているはずです。

 トヨタ自動車の2015年3月期の売上高は約27兆2300億円、営業利益は2兆7500億円でした。同じ自動車メーカーであるホンダと比較すると、トヨタの規模が大きいことがよく分かります。

 ホンダの同じ期における売上高は、12兆6400億円、営業利益は6500億円ですから、トヨタの売上高はホンダの2倍以上もあります。多くの人は、大手自動車メーカーといってひとくくりにしてしまいますが、企業規模に大きな違いがあることを認識しておく必要があるでしょう。






 

 営業利益を売上高で割ると営業利益率が計算できます。トヨタの営業利益率は約10%、ホンダは5%です。トヨタはホンダの2倍以上の利益率であり、高収益体質であることが分かります。もっとも、日本の大手企業の平均的な営業利益率は4%から5%程度なので、ホンダも平均的な利益率は確保しています。

 続いて、資産に目を移してみましょう。

 トヨタの総資産額は48兆円、ホンダは18兆円となっており、トヨタの資産額が大きいことが分かります。問題は資産の中身ですが、トヨタの自己資本は18兆円、ホンダは7兆円です。トヨタの自己資本比率は約37%、ホンダの自己資本比率は39%となっており、両社はほぼ同じ水準の財務体質とみて差し支えありません。






 

 ここで少し疑問が湧きます。トヨタはホンダよりも高収益なので、本来であれば利益の蓄積が大きく、自己資本比率が高くなっているはずです。財務体質が良好なのは、これまでの決算が良好だったことを意味しているわけですが、一方で、内部留保を過剰に蓄積している可能性もあります。

 実は、以前のトヨタはさらに財務体質が強固でした。トヨタの財務体質がホンダ並みに下がったのは、2000年頃から、同社が積極的な株主還元策を行ってきた結果なのです。トヨタの株価が高かったのは、こうした株主還元策も大きく影響しているわけです。

 ざっと決算を見るだけでも、これだけのことが分かってきます。大事なのは事業をイメージする創造力です。

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