人工知能はビジネスに何をもたらすか?

 人工知能の開発に力を入れている米IBMが、同社の人工知能「ワトソン」の本格的な普及に向けて動き始めています。
 10月8日には、600人のスタッフを擁する専用の拠点をニューヨークに設置し、本格的な普及活動をスタートさせました。人工知能が普及するとビジネスの現場にはどんな影響があるのでしょうか?

人工知能が自分で学習することの意味
 IBMのワトソンは、同社が開発した人工知能システムです。以前、同社の人工知能システムであるディープ・ブルーがチェスの世界チャンピオンを打ち負かしたことで有名になりましたが、ワトソンはディープ・ブルーをさらに進化させたものです。

 こうした人工知能システムの最大の特徴は、自己学習能力と自然言語処理能力にあるのですが、この二つがもたらすインパクトについては、あまりピンとこないという人も多いかもしれません。

 しかし、こうした能力を備えた人口知能が普及すると、社会にとてつもない影響を与えることになります。その衝撃は、ひょっとすると、人類最大の発明のひとつともいわれるインターネットを超えるかもしれないのです。

 簡単に言ってしまえば、自己学習能力と自然言語処理能力をもったコンピュータがあれば、人が行う仕事のかなりの部分をコンピュータが奪ってしまうことが可能となるのです。もう少し具体的に説明してみましょう。

 ワトソンの前身であるIBMの人工知能ディープ・ブルーは、チェスの世界チャンピオンを破ったことで有名になりましたが、最近では、チェスよりはるかに複雑といわれる将棋の世界でも、人口知能がプロ棋士を破ったりする事例が増えてきています。

 ではこうした人工知能は誰からプロ騎士の打ち方を習ったのでしょうか?
 もちろんコンピュータですから、最初にプログラムした技術者というのは存在していて、その人が、チェスの基本ルールや勝ち方などを教えた(プログラムに組み込んだ)わけです。

 しかしプログラムを開発した技術者は技術者であって、プロ騎士ではありません。プロ騎士に対する勝ち方までプログラム上に実装することはできないのです。
 実は人工知能が自分で勝ち方を覚えていったのです。プロ騎士の対局を何度も見せ、プロ騎士の高度なテクニックを人工知能が学習していったわけです。

 これはビジネスの世界に途方もないインパクトをもたらします。

ai brain

いわゆるベテランの知見は無価値に?
 オーストラリアの大学では、学生にガイダンスを行う部署に人工知能を導入するプロジェクトが進んでいます。そこでは、人工知能に大学のパンフレットやWebサイト、各種資料などを無作為に読ませています。あとは人工知能がそれらの情報を自動的に体系化し、学生からの質問に対応できるようにしてくれるのです。

 学生から、食堂の場所を聞かれたと仮定しましょう。従来であれば、学生からそうした質問があることをあらかじめ想定する必要がありました。コンピュータに場所という概念を教え、地図のデータを入力させ、それらを関連づける作業が必要だったわけです。しかし人工知能はそういった作業が必要ありません。

 そうなってくると、世の中はどう変わるでしょうか?

 これまではどんなに情報システムが発達しても、人間の感覚にはかなわないという認識があったのですが、それがひっくり返る可能性があるのです。

 先ほどの大学の例でいくと、長年その大学に勤務していて、隅から隅まで大学のことを知り尽くしているという人がいたはずです。学生が、すでに消滅した音楽サークルのことを尋ねると「ああ、それは○年頃まで存在していたはずでね。当時の顧問は確か○○教授だったよ」といった答えが返ってくるといった具合です。

 こうした情報はこれまでのシステムでは取り扱いがなかなか難しいものでした。しかし人口知能を使えば、何らかの断片的な情報さえ残っていれば、こうした生き字引的な人のような回答をシステムが引き出すことができるのです。

 こうした人工知能システムがビジネスの現場に入り込むと大変なことになります。これまで、ある組織における豊富な経験をウリに、仕事を有利に進めてきたような人は、あっという間に駆逐されてしまう可能性が出てくるのです。

 またある分野において卓越した能力を持つ人の行動は、人工知能が簡単に学習してしまいます。優秀な営業マンの行動を人工知能が分析すれば、たちどころに、優秀ではない営業マンに適切な支持を出せるようになるでしょう。

 これからは、優秀なビジネスマンはただ優秀なだけではダメなのです。自分の優秀さを効率よく人工知能に移植し、それをチーム全体に波及できるような人が出世していくことになるでしょう。それができない人は、優秀であっても、あまり評価されなくなっていくのです。