経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

投資でやってはいけないこと(後編)

 年金2000万円問題を受けて、ネット証券の口座開設申し込みが急増しているそうです。基本的には年金だけで老後の生活をカバーするのは困難ですから、投資に対する意識が高まっていること自体はよいことだと思います。
 しかしながら、長期で安定的な運用を行うとはいっても、投資にリスクはつきものであり、中途半端な気持ちでは成功しません。前回は、これから投資を始めるにあたって、注意すべき項目について解説しましたが、今回はその続きです。

その4 リスクを嫌う

 「投資にリスクはつきものである」というのは、あまりにも当然のことであり、誰もが知っている大原則なはずですが、この話を本当に受け入れることができている人は少数派です。いざお金がかかると、多くの人がこの大原則を平気で曲げてしまい、失敗へ一直線となります。

 投資から得られる期待リターンは、原則としてリスクに比例します。高い収益を得ようと思ったら高いリスクを取るしか方法はなく、投資の初心者であっても、投資の神様であるウォーレン・バフェット氏でも条件はまったく同じです。しかし、この原則を受け入れられない人がたくさんいます。

 時々、投資で成功したいがリスクは抑えたいという話を耳にすることがあるのですが、こうした考えを少しでも持っているなら投資はやめた方がよいと筆者は考えます。リスクを取りたくないという気持ちが強すぎると、あたかもリスクを軽減したかのように見せた、良心的ではない金融商品に手を出してしまう可能性が高くなります(このような商品は銀行の窓口でも紹介されたりしていますから注意が必要です)。

 どれだけ複雑なオプションを組み合わせたり、難解なポートフォリオを構築したところで、最終的なリスクは個別銘柄のリスクの組み合わせでしかなく、リスクそのものを軽減することはできません。投資はシンプルに行うのがベストであり、それがもっともリスクを可視化してくれます(あくまで可視化であって軽減ではないことに注意してください)。

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その5 投資する銘柄を自分で決められない

 遊びで投資するなら話は別ですが、本気で老後の資産形成を考えているのなら、それはれっきとしたビジネスになります。「どの銘柄に投資すればよいのか分からない」という話を耳にすることが多いのですが、投資が本気のビジネスだとするなら、厳しいですが、これは禁句です。企業に当てはめれば、どの製品を売るのか他人に聞いて意思決定する企業経営者はいないはずです。

 どの市場に投資するのか、どの銘柄を選択するのかで、投資の成否はほぼ決まると思って差し支えありません。どんなにつらくても、そして面倒であっても、最終的には自分で投資対象を決めるしか方法はありません。他人の意見を参考にするのはよいですが、最終的な決断を自分でできないのであれば、投資はやめた方がよいと思います。

 筆者は20年以上の投資経験を積んでいますが、今でも銘柄の選択は楽しい作業ではありません。精神的にも肉体的にもかなりの負担ですが、投資を続ける以上、この作業を避けて通れないと割り切っています。

その6 ニュース記事を感情で読んでしまう

 メディアの報道は、プロも含めて多くの投資家にとって重要な情報源となっています。逆に言えば、メディアの報道をどう受け止めるのかで投資の成果は大きく変わってきます。多くの人はニュースを感情で読んでしまう傾向があり、こうしたニュースの読み方をしているとほぼ100%投資で失敗します。

 マスメディアというのは商業ジャーナリズムであり、基本的にはビジネスです。極論すると、読者や視聴者があまり喜ばない真実よりも、真実かどうかは微妙ですが、読者が望む話題の方が圧倒的に記事に取り上げられやすいのが現実です。つまり記事のトーンは読者の願望で形成されることになります(日本スゴイといった類の話はその典型といってよいでしょう)。

 ニュース記事を情報源にする場合には、記事に書いてあることは真実というよりも、多くの読者がそうあって欲しいと願っていることであるとの割り切りが必要です。

 投資において必要なのは事実(ファクト)の部分のみであり、こうあって欲しいといった願望は弊害にしかなりません。報道を鵜呑みにして投資したものの、うまくいかなかったといってメディアを批判している人をよく見かけますが、他人に依存する感覚を捨てきれないのであれば投資はやめた方がよいでしょう。

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