加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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社員の発明に関する扱いが180度転換へ

 

 政府は、企業の社員が発明した特許について、原則として企業に帰属させる方向性で検討を開始しました。従来は原則として発明者(社員)に帰属していましたから、これは基本方針の180度転換ということになります。

青色発光ダイオード訴訟がきっかけ
 現在の特許制度では、企業の社員が業務を通じて発明した特許については、原始的にその権利は発明者(社員)にあると規定されています。企業がその特許を利用して事業を行うためには、発明した社員に対して相当の対価を支払う必要があります。

 ただ現実には、社員ひとりの力で発明を成し遂げることは困難であり、会社の資金や設備、同僚の協力などがあってはじめて成立するものです。

 また日本の大企業の場合、全員に終身雇用が保証されていますから、特定の個人だけが過大な報酬を受け取る仕組みにはなっていません。このため、画期的な発明を行った社員も、他の社員とあまり違いのない報酬にはなっているケースがほとんどだったわけです。

 この状況を揺るがす事態が2001年に発生します。青色発光ダイオードを発明した元日亜化学工業社員の中村修二氏が、同社に対して20億円の支払いを求める訴訟を起こしたのです。
 裁判は紆余曲折がありましたが、中村氏側の主張はあまり認められず、最終的に、中村氏と日亜社は約8.5億円の金額で和解しました。

 こうした訴訟で警戒を強めたのが経済界です。経済界は一連の裁判をきっかけに政府に対するロビー活動を強化。その結果、安倍政権が2013年6月にまとめた知的財産政策に関する基本方針に「発明制度について抜本的な見直しを図る」との内容が盛り込まれました。
 今回の特許庁における法改正の議論は、この基本方針の策定をうけて行われているものです。

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本来は当事者同士で決定すべき問題
 先ほども述べたように、個人の発明であっても、企業の設備や同僚の協力なしに発明を実現するのは難しいですから、一定の報酬を支払う代わりに権利を法人に帰属させるという結論自体は、合理的なものであると考えられます。

 しかし、本来であれば、こうした権利の帰属は当事者同士の交渉で成立させるのが望ましいものです。発明が生まれた経緯やその内容は、それぞれバラバラだからです。

 発明が個人に帰属するという意識が強い米国でも、現実は異なります。企業と社員の契約が最優先されており、状況に応じて柔軟な対応ができるようになっています。

 中には、画期的な発明をいくつも実現するスーパー技術者もいて、そのような人に対しては、引き抜きに合わないよう、発明に対して高い対価を受け取れるケースもあるでしょう。

 しかし、そんなエンジニアは全体のごく一握りです。大半のエンジニアは言葉は悪いですが、凡庸な社員ですから、社内で生み出された成果は基本的に会社に帰属する契約を結んでいます。おそらく、これが現実に即した解決策と考えられます。

 こうしたやり方は企業が積極的に社員に提示べきことですし、そうすれば、優秀なエンジニアに対する対価は、市場メカニズムで自然に決まってくるものです。また不必要に訴訟沙汰になるリスクも軽減できます。

 しかし、日本の企業はこうした努力をせず、政府に頼ってお墨付きを得ることに邁進してしまいました。これは世界から有能な人材を獲得するという意味でも、日本企業の戦略性という意味でも、少々問題かもしれません。

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