経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

グーグルが二足歩行ロボットの開発を中止した理由

 米グーグルの持ち株会社であるアルファベットが二足歩行ロボットの開発を中止することになりました。一方、ソフトバンクグループは、グーグルからロボット会社を複数買収するなどグーグルに代ってロボット開発のリーダーとなりつつあります。

一時はロボット市場の多くを支配していた

 グーグルは2013年にロボット開発会社であるボストン・ダイナミクスを買収し、本格的にロボット開発市場に参入しました。その後、二足歩行ロボットを得意とする東大発のロボット・ベンチャー「SCHAFT」を買収し、ロボット開発市場の多くを支配するまでになりました。

 こうした状況から、近い将来、ロボット市場はグーグル主導で展開すると多くの人が考えていましたが、その後、状況は思わぬ方向に動きます。

 グーグルのロボット開発を初期段階から率いてきた責任者が退社し、同社のロボット戦略がはっきりしなくなりました。これと前後して、グーグルは持ち株会社の体制に移行しており、新規事業についてもその採算性を厳しく問われる形になったのです。

 ロボットは開発途上ですから、短期的に利益を追求するのは困難です。市場では、グーグルのロボット部門売却の噂が何度も流れるようになりました。

 最終的にグーグルは、ボストン・ダイナミクスのソフトバンク・グループへの売却を2017年6月に決定。SCHAFTについても売却する算段でしたが、ソフトバンク側と条件が合わず中止となっていました。結局、SCHAFTについても開発を中止する決定を下したことで、グーグルはほぼ完全にロボット市場から撤退することになります。

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当初は軍事目的の色彩が濃かった

 二足歩行ロボットは、見た目のインパクトの大きさから世間の関心を集めがちですが、どの程度、事業機会があるのかという疑問の声は常に存在していました。

 テクノロジーというのは、実際に製品やサービスが市場に出てこなければ、本当のニーズは顕在化しませんから、開発段階の価値観でその技術の是非を決めつけてしまうのはよくありません。

 日本政府が主導する官営投資会社である産業革新機構は、資金調達を希望するSCHAFTに対して見向きもしなかったそうですが、その判断は正しいとはいえないでしょう。しかしながら、どこかのタイミングで大きなニーズが生まれない限り、その技術が広く普及することはないというのも事実です。

 多くの関係者はあまり積極的に口にしませんが、ロボット開発の初期段階において、製品の最大の買い手として想定されていたのが軍であることは明らかです。ボストン・ダイナミクスは国防総省から開発資金の提供を受け開発を進めていた会社ですし、米国で行われたロボット・コンテストも国防総省傘下の機関が主催していました。

 グーグルはその後、軍関係の開発には協力しない方針を打ち出しており、今回のロボット開発中止と関係しているとの指摘も出ていますが、はっきりしたことは分かりません。いずれによせグーグルは、当面、ロボット市場には採算性がないと判断した可能性は高いでしょう。

 今後のロボット開発はソフトバンクグループにゆだねられることになりますが、同社では建設現場や介護現場での活用を想定しているようです。しかしながら、この市場だけで膨大な開発費を回収することは難しいでしょう。二足歩行ロボットを本格的に実用化するためには、そろそろ本命となる用途を開拓する必要がありそうです。

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