昔、円高デフレは「悪」だと言われていたが・・・

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第24回

 情報を読み解く際に、気をつけなければならないのは「時間」の概念です。まったく同じ情報であっても、時間によってその解釈は大きく変わるからです。
 今、目にしている情報と、3年前に目にした情報がまったく同じものであっても、その解釈がまったく違っているケースがよくあります。

生活が苦しいのは円高のせい?

 時代によってその意味が180度変わってしまう典型的なケースが円高と円安でしょう。ドル円相場が1ドル=80円を割り、円高がピークとなっていた2011年頃には、日本経済が停滞し、生活が苦しいのは、すべて円高が原因であるとの論調が主流でした。経団連も、企業業績が伸びないのは円高が主な原因であるとして、政府に対して何度も円高対策を取るよう求めています。

 こうしたニュースやオピニオンが大量に提供されていますから、多くの人が、デフレは円高が原因で発生しており、これを解消することが生活の改善につながると考えていました。そうであるからこそ、安倍政権のキャッチフレーズは「デフレ脱却」だったわけです。

 アベノミクスがスタートした直後はこうした風潮を受けて、量的緩和策をプラスに評価する論調が数多く見られました。量的緩和策は株高と円安を演出したところまでは順調でしたが、その後は、当初の予想に反して、賃金が上昇せず、円安による物価の上昇で国民生活が苦しくなるという弊害が目立つようになってきました。

 生活実感が悪くなると、多くの人が円安を悪いものと考えるようになります。円安が定着しはじめた2014年あたりからは、徐々に円安について否定的に捉える論調がメディアに目立ち始めます。

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年齢によって感じ方が異なる

 最近ではデフレの方が国民生活は良くなるという論調まで登場しています。わずか数年の間に「デフレ=円高」と「インフレ=円安」というキーワードが持つ意味はすっかり変わってしまったわけです。

 時間軸によってニュースが持つ意味が変化するわけですが、面白いことに、年齢によって時間の進むスピードはバラバラです。これは物理的に時間の進みが違うという意味ではありません。同じ時間が経過していても、年齢によって、気持ちが変化する割合が異なっているということを言いたいのです。

 東京大学が、円安についての印象を同じ対象者に1年という時間をおいて実施したところ、年齢によって大きな違いが見られました。
 
 2013年の調査では、円安は悪いものと回答する人の割合は、年齢ごとに大差はなく、だいたい50%前後でした。逆に言えば、残り50%は円安が悪いものとは考えていなかったわけです。
 ところが2014年に同じ調査を行ったところ、円安が悪いものと考える人の割合は大幅に増えていたものの、割合の増加幅は、年齢によって大きく異なっていました。年齢が上がるにつれて、円安が悪いと考える人の割合が高くなっているのです。

 50代以上の人の中には、インフレが進んだ時代を皮膚感覚として捉えている人がいます。このような人たちはインフレに対する警戒感が強いので、円安を悪いものと捉える傾向が強いようです。一方、若い世代はデフレしか知りませんから、高齢者ほど円安に対して警戒感を持っていません。

 世の中を飛び交っている情報を分析する際には、時間がもたらすこうしたクセを理解しておく必要があるわけです。

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