語られなかった情報にこそ意味がある

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第21回

 情報というのは多くが願望から作られるものですが、願望が情報にストレートに反映されるわけではありません。人間の心理は単純ではありませんから、少しねじ曲がった形で情報に反映される可能性も十分に考えられます。
 語られた情報ではなく、語られなかった情報に意味があることも多いですから、情報には常にクールに接することが大事でしょう。

バフェット氏が日本市場に投資をしない理由

 著名投資家であるウォーレン・バフェット氏は日本にもファンが多く、日本のメディアもバフェット氏の発言をよく取り上げます。しかし、彼の発言を注意深く分析すると、ある特徴が浮かび上がってきます。

 バフェット氏は、投資家ですから、世界中の市場の中から、それこそ目を皿のようにして有望企業を探しているわけですが、先進国の中で、なぜが話題に上らない国が一つあります。それは日本です。

 バフェット氏は、自身が買収した会社が間接的に丸ごと工場を買収したケースを除いて、日本企業に一切投資をしていません。またバフェット氏の口から日本企業のことが話題に上ることもほとんどありません。例外があるとすると、日本のメディアが、日本への投資についてわざわざ質問した時だけです。

 つまりバフェット氏は、日本についてほとんど語っていないわけですが、これには重要な意味があります。

 バフェット氏が普段発言していることをそのまま解釈すると、日本市場はバフェット氏にとって評価に値しないと認識している可能性が高いと考えられます。わたしたち日本人にとっては、あまり聞きたくない話かもしれませんが、こうした部分にこそ重要なヒントが隠されています。

 バフェット氏は日本について語っていませんから、推測するしかないのですが、日本企業の長期的な成長性に疑問を持っているのかもしれませんし、あるいは日本市場の不透明性を嫌っているのかもしれません。

 もしバフェット氏の情報が有用だと考えるのであれば、日本の株式市場にはそうした障害が存在している可能性があるということを、わたしたちは認識しておくべきでしょう。

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米朝交渉が成立する可能性があることは昨年の段階から見えていた

 2018年6月12日、歴史上初めてとなる米国と北朝鮮による首脳会談が行われました。
 筆者はその前年、北朝鮮が何度もミサイルを発射している時に、米朝はいずれ合意に達し、首脳会談を行う可能性があると指摘していました。
 一部からは「非常識」「あり得ない」などと批判されたのですが、筆者が米朝合意の可能性アリと判断した理由のひとつは、北朝鮮に対する制裁決議に、ある事項が盛り込まれなかったことです。

 国連の安全保障理事会は2017年9月12日、北朝鮮に対する新たな制裁決議を全会一致で採択したのですが、事前のドラフトでは金正恩氏の資産凍結と北朝鮮への原油輸出禁止という項目が盛り込まれていました。しかし、最終的な宣言においては資産凍結という項目が消えていました。

 これは「語られなかった情報に意味がある」という典型的なパターンです。金一族の資産に関する項目を外したということは、北朝鮮にとってはこれがもっとも譲れない一線であり、米国にとっては最大の交渉材料であることを示しています。

 案の定、北朝鮮と米国はその後、水面下で交渉を続け、核を放棄する代わりに、金氏の体制や安全を米国が保証するという交渉がとりあえず成立しました。

 制裁決議という表面に出てきた結果だけを見ていては、交渉の全貌を推測することはできません。出てこなかった情報についても同時に分析することで、はじめて全体像が見えてきます。常にこのパターンが成立するわけではありませんが、こうしたテクニックは、頭に入れておいて損はないでしょう。

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