経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 超カンタン経済学

金利は何で決まるのか?

加谷珪一の超カンタン経済学 第12回

 前回は、ひとつの経済モデルとして、設備投資がGDP(国内総生産)の水準を左右することや、金利の動きが投資に影響を与えることなどについて解説しました。今回は金利がどのようなメカニズムで決まるのかについて取り上げます。

モノやサービスと同様、お金にも市場がある

 これまでGDPの項目で議論してきたのは、製品やサービスをやり取りする市場についてです。経済学では、これを財・サービス市場と呼んでいます。一方、お金をやり取りする市場は貨幣市場と呼びます。貨幣についても、製品やサービスと同様、需要と供給があり、最終的に流通するお金の量が決まります。

 銀行の融資が代表的な例ですが、お金を借りる場合には、お金のレンタル料である金利を支払う必要があります。お金の需要が高まれば金利は上がり、お金の需要が低下すれば、金利は下がるというメカニズムが働きます。

 経済学では、お金の需要には主に2つの種類があると考えます。ひとつは取引需要、もうひとつは資産需要です。

 取引需要は、財やサービスの取引に伴ってお金が必要になるという話です。あまり取引が活発でなければ、手元に多くのお金がなくてもビジネスをすることができます。しかし景気がよくなって取引が活発になると、企業はそうは言っていられなくなります。
 品切れを起こさないよう、早めに商品を仕入れる必要があるからです。先に商品の代金を払ってしまいますから、手元のお金は出ていく一方となるでしょう。

 このような時には、商品が売れて代金が入ってくるのを待っているわけにはいきませんから、企業は手元にたくさんのお金を用意しておく必要に迫られます。
 景気が拡大しているということはGDPが増えているということですから、GDPが増大すると貨幣に対する需要は増加するのです。当然、お金の奪い合いになりますから、お金を借りるために必要となる利子も上昇することになります。この話は経済学における貨幣市場の均衡を示すLM曲線と同じことを示していると考えてよいでしょう(LM曲線についてはいずれ解説します)。

 この話を聞いて疑問に思った人もいるはずです。前回までのコラムでは、金利によって投資が決まり、それがGDPの水準を決めるという考え方について説明してきました。しかし、その金利がGDPで決まるのだとすると、起点となる変数がモデルの中をグルグルと無限ループしてしまいます。

 まさにその通りであり、厳密には、何が経済を動かすのか一意的に決めることはできません。あくまで、「○○になると××になる」という論理は、議論のための土台でしかないということを理解しておいてください。

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最終的には人々の心理が金利を決定する

 一方、貨幣には取引の決済以外の用途もあります。例えば、資産の保全手段として現金を保有したり、余っている資金を債券などに投資するという使い道です。

 もし金利が上がっていれば、多くの人は債券に投資した方が金利の分だけ儲かりますから、あまり現金を持ちたがりません。したがって貨幣の需要は減少することになります(経済学的には余ったお金は先ほどの取引需要に回ると考えます)。
 逆に金利が下がっていた場合には、債券に投資してもあまり儲かりません。債券投資にはリスクが伴いますから、あまり儲からないなら現金で持っていた方が安全です。このため金利が低下すると、現金への需要が増えることになるわけです(投機的動機とも言います)。

 先ほど、金利の動向はGDPの水準によって決まると説明しましたが、金利の水準は今のGDPの数値だけで決まるものではありません。将来、GDPがどう推移するのかという見込みも大きく影響してきます。

 もし将来にわたって景気が拡大し、GDPが増えると多くの人が予想した場合、貨幣の取引需要も増えると予想されます。そうなってくると、実際に景気が拡大していなくても、それを見越して金利が上昇することがあるわけです。逆に将来、不景気になると皆が考えれば、金利は低下してくるでしょう。

 つまり、金利というのは最終的には人々の心理というものに大きく左右されることになります。経済が理屈だけで説明できないのは、こうしたメンタルな部分による影響が大きいからでもあります。

加谷珪一の超カンタン経済学もくじ

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