加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

*

政府が日本の書籍を国費で英訳。効果はある?

 

 政府が日本の書籍の英訳を国費で支援し、海外に発信する事業に乗り出すと報じられています。翻訳対象となる書籍を選ぶ有識者委員会を設置し、約8000万円をかけて100冊程度の書籍を翻訳した上で、海外の研究機関や図書館などに提供するそうです。

日本は情報発信が苦手?
 日本は国際的な情報発信を苦手としているという指摘は、かなり昔から存在していました。日本のことがよく理解されていないために、多くの機会損失が発生している可能性があります。国費で英訳を支援する事業には、それなりの意味があるでしょう。

 しかし新聞の見出しを見ると少々気になることがあります。海外への情報発信を国家として積極的に行っている中韓に対抗するというニュアンスになっているのです。これはあくまで新聞の見出しであり政府がそれを明示的に意図したかどうは分かりません。

 しかしそのような見出しが成立するということは、そうした雰囲気が日本に存在していることの裏返しと考えてよいでしょう。
 
 確かに中国と韓国は露骨なロビー活動や宣伝活動で自国を宣伝し、日本よりも優位な立場に立とうとしています。国内には、中国や韓国のこうしたロビー活動に対抗して、日本も米国などでロビー活動をすべきであるという意見もよく耳にします。

 日本の立場を外国に知ってもらうことは非常に重要なのですが、留意しなければならないことがあります。国際的な広報活動には、様々なやり方があり、その国の立場によってどのような手段を用いるべきなのかは変わってくるという点です。

 国費を大量に投入し、露骨にロビー活動を行うといった行為は、ある意味で、途上国に与えられた特権です。

 対米国という点で考えれば、日本は、米国のもっとも重要な同盟国であり、米国と並ぶ先進国であったはずです。こうした国が、新興国と同じようなロビー活動を行うというのは、あまり好ましい姿ではありません。ストレートに言ってしまえば、国には格というものがあるわけです。

 つまり本来であれば、日本は横綱相撲を取る国であり、中国や韓国と宣伝合戦をするような立ち位置にいてはならないわけです。

eiyaku001

先進国と途上国は立場が違う
 こうした観点でこの英訳事業を考えると、もう少しいろいろな考え方が見えてくると思います。本来、先進国は新興国にはない文化の厚みがあり、黙っていても、そこで生み出されるコンテンツには商品力が出てくるものです。

 米国で出版され話題になった本は、世界の人が読みたがるので、黙っていても翻訳がどんどん進みます。ディズニーのアナと雪の女王は、日本の津々浦々で上映され、皆が映画館で「Let it go」を絶叫していますし、ニューヨークの下町は汚い町並みであるにもかかわらず、世界から観光客を集めています。
 
 大学も同じです。米国の大学は世界の学生にとって魅力があるので、世界中の人が皆、米国に留学したがります。日本人で米国の大学に留学した人を見れば分かると思いますが、多くの人が米国のファンになって(悪く言えば米国かぶれになって)帰ってきます。

 国際政治の世界では、こうした形で世界を間接的に支配下に置く戦略をソフトパワーと呼びます。

 日本は経済大国になったわけですから、本来であれば、こうしたソフトパワーを駆使する国になっている必要があったわけですが、バブル以降、経済という根本的な部分で躓き、こうした体質転換が実現しませんでした。

 しかし今からでも遅くはありません。日本のコンテンツはアジア地域では、日本のコンテンツという理由だけでアドバンテージがあります。英訳して欧米に理解してもらうことも重要ですが、中国などに日本のコンテンツを普及させ、日本に有利な方向に持ち込むという、もっと大きな視点での戦略が必要です。

 - 政治 ,

  関連記事

shoushikataisaku
出産に対する麻生大臣の発言から見えてくるもの

 麻生財務大臣が、少子高齢化で社会保障費が増えていることについて「高齢者が悪いよ …

sukaimaku
日本の空はどうなっている?

 このところ日本の航空業界でネガティブな出来事が続いています。日本の格安航空会社 …

joseitouyou
安倍政権が「女性登用政策パッケージ」を決定。その効果は?

 政府は2014年10月10日、女性登用に関する会合を開き「すべての女性が輝く政 …

nenkingokai144
年金に関する根本的な誤解

 前回は公的年金の運用を株式にシフトする動きが加速しているという話をしました。そ …

putinkukyou
ロシアの経済的苦境から見えてくる戦争の現実

 ウクライナ問題をめぐる西側各国の制裁によって、ロシア経済が厳しい状況に追い込ま …

nyugyu
バター品薄で浮き彫りになった日本の国家独占貿易システム

 このところバターの品薄が続いていますが、これに対処するため農林水産省が1万トン …

hatsumei
社員の発明に関する扱いが180度転換へ

 政府は、企業の社員が発明した特許について、原則として企業に帰属させる方向性で検 …

gdpkaiteichi
7~9月期のGDP改定値が上振れ。しかも大臣が事前に見通しを披露?

 内閣府は2015年12月8日、2015年7~9月期のGDP(国内総生産)改定値 …

nsa
NSAの情報収集を制限する米国自由法が成立。安全保障と個人の自由の関係はどうなる?

 米上院は2015年6月2日、NSA(国家安全保障局)による個人情報の収集を認め …

hirari
米大統領選が示す複雑化した米国社会

 民主党のヒラリー・クリントン前国務長官がいよいよ米大統領選挙への出馬を表明しま …