経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 超カンタン経済学

国よって消費と投資の比率は異なる

加谷珪一の超カンタン経済学 第4回
【消費と投資のバランス】

 前回は、人は稼いだお金の一定割合を消費し、残りは貯蓄するという話をしました。貯蓄されたお金は、銀行からの融資などの形で企業に提供され、店舗や工場など、新しい生産設備の投資に回されます。消費者が稼いだお金のどの程度を消費に回すのかで経済の状況が変わってくることになります。

成長途上の国は投資の比率が高い

 もし消費者が稼いだお金の多くを消費に回してしまうと、その国の経済全体において、将来、生産を行うための投資がおろそかになってしまいます。しかし、消費に対する支出が少ないと、豊かな生活を送るための製品やサービスが生まれてきません。

 消費と投資がどの程度のバランスになっていればよいのかは、その国が置かれている環境によって異なります。

 成長途上の国は、国民が豊かな消費生活を送るだけの余裕がありませんから、稼いだお金の多くが貯蓄を通じて投資に回り、生産の拡大に費やされます。

 例えば、貧しい途上国が工業化に成功して、企業が海外から多くの対価を受け取ると、たいていの場合、その資金は生産設備の拡大に回されます。さらに生産が拡大して業績が拡大すれば、より多くの対価を受け取ることができますから、再投資の金額も大きくなってきます。

 しかし設備投資に回されたお金は、最終的には労働者の所得となり、家計収入の増大につながりますから、徐々に家計は豊かになり、多くの金額を消費できるようになります。

 家計が多くを消費できると、それに対応した製品やサービスが登場してきますから、社会は徐々に豊かになっていきます。しかしながら、成長途上の国の場合には、消費よりも投資が優先されますから、投資の割合が高いという状況がしばらく続くことになります。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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豊かな消費型経済に移行できた国は強い

 高度成長期の日本や数年前の中国は消費よりも投資が活発でした。中国では全体の経済活動のうち約4割が設備投資であり、消費とほぼ同じ割合です。
 今の日本は投資の割合は25%程度、消費の割合が60%程度ですが、1970年代の日本は、中国と同様、投資の割合は4割近くありました。一方、社会の成熟化が進んだ国では、消費の割合が高くなる傾向があり、米国では7割にも達します。

 投資ではなく消費を拡大させることで経済成長を実現することを内需拡大と呼びます。消費というのは、そう簡単に減るものではありませんから、内需拡大による成長モデルを実現できれば、安定的に豊かな経済を謳歌できます。

 しかし内需を拡大させるためには、コンテンツなど形のないものに高い付加価値を付け、それに対して、多くの人がお金を支出する必要がありますから、社会そのものが豊かでなければいけません。また国民の意識の持ち方も影響してくるでしょう。

 日本では1980年代から、内需拡大による消費経済への移行が模索されましたが、なかなかうまくいきませんでした。数字上は製造業が経済に占める割合は減っていますが、付加価値の高い、豊かな消費経済が実現できているのかというと、残念ながらそうではありません。

 日本が今後も、先進国としての地位を維持できるのかは、内需拡大型の経済システムを構築できるのかにかかっています。

加谷珪一の超カンタン経済学もくじ

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