アカデミックな情報に接する場合の注意点

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第12回

 情報には種類ごとに独特のクセがあります。このクセをうまく理解しないと、適切に情報を分析することはできません。今回は、情報分析マトリックス(過去記事「情報を扱う基本的なマトリックス」参照)の右上、つまりマクロ的でデータを中心とした情報が持つクセについて解説します。

学術を使った分析が真実を表わしているとは限らない

 マクロ的で、データを中心とした情報の多くは、アカデミックな傾向を持っています。経済の分野では、エコノミストと呼ばれる人たちの分析がこれに相当します。

 エコノミストになる人が経済学者とは限りませんから、エコノミストが常に経済学に沿った厳密な議論をしているわけではありません。しかし、彼等の分析手法や結果の導き出し方は、たいていの場合、既存の経済学をベースにしています。

 こうしたアカデミックな分析は、不明瞭な状況から全体像を推定するには最適な手法です。とりあえず確立した方法論に沿って分析を行えばよいわけですから、データを前にして途方に暮れるという状況にはなりません。
 しかし、アカデミックな分析手法には欠点もあります。それはアカデミズムで定義された枠組み以外のことは、分析できないというものです。

 学術分野の成果というのは、必ずしも真実を示しているわけではありません。

 ある仮説が提示され、その仮説に対して、学術的ルールに基づいて検証を行うという流れで成果が生まれてきます。学術的ルールに沿って検証できなければ、それは、成果としては認められないのです。

 したがって、現実社会では、ほぼ真実と思われることであっても、学術的には検証できないので、真実にはならないというケースが十分にあり得ます。しかし学者の人は、学術に対して厳密であればあるほど、その文脈に沿った内容しか解説しませんから、「それが真実だ」とは発言しません。

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言い切ってしまうような学者は要注意

 アカデミックな情報を取り扱う場合には、アカデミックな傾向が強い情報であればあるほど、その文脈に沿った結論しか出てこないという現実について知っておく必要があるでしょう。
 経済の分野は、現実の問題を解決して欲しいという要望が強いことから、こうしたミスマッチがよく起こりがちですが、経済学的な分析を参考にする場合には、この点に注意が必要です。

 例えば、経済ニュースでは、国の経常黒字や経常赤字のことが取り上げられます。また、その是非については様々な意見があります。

 経常赤字や経常黒字が何を意味しているのかという話は、実は経済学の世界でも解釈が変化しています。以前は、国内需要を上回る供給については海外の需要が吸収しており、それが黒字になっているという解釈が主流でした。しかし最近では、貯蓄の方が重要視され、国内で貯蓄が過剰になっていることが黒字につながっていると解釈されています。

 経済学者、あるいは経済学をベースにしたエコノミストなどの専門家は、現在主流になっている解釈をもとに分析を行い、論理の組み立てを実施します。学術ルールでは対象外となる考え方や分析は基本的に行いませんから、情報の受け手はそのことを十分に理解した上で情報を整理する必要があるわけです。

 学者の分析は、はっきりしていなくて分かりにくいという批判を聞くことがありますが、これは学術的にはそこまでしか言えないということの裏返しでもあるわけです。逆に学者として説明しているのに、あまりにも明瞭に、そして物事を言い切るように説明する人は、学術の領域を超えて発言している可能性もあるので注意が必要です。

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