経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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号泣県議を刑事告発することが議会の仕事なのか?

 不明朗な支出が問題となり「号泣」会見で一躍有名になった兵庫県の野々村竜太郎県議に対して、兵庫県議会は正副議長など10名の連名で刑事告発しました。

議員を告発するのが正しいやり方なのか?
 たしかに野々村議員の不明朗な支出は一般的な常識の限度をはるかに超えており、議員として責任を負うことは当然のことといえるでしょう。しかし、議会として刑事告発するとうのは、議会というものを存在意義を考えると少々考えものです。

 野々村議員は、収支報告書の中で、3年間で約340回の日帰り出張を行い、約800万円の交通費を政務費から支出したとしています。直近の1年間では、日帰り出張を1年間に195回実施したとして、政務活動費から約300万円を支出しています。

 例の号泣(というか絶叫?)会見では「うそ偽りはない」と主張したのですが、結局、本当に出張したのかどうかは分からずじまいで、その後、議会事務局では、野々村議員に対して聞き取り調査を実施しています。野々村議員は、「出張には間違いなく行った」と主張したそうですが、客観的に資料については「全く何もない」と答えたそうです。

 野々村議員は、当選から今月までの3年の間に受け取った政務費1834万円を一括返納する意向ということです。また11日には議会事務局に辞職届を出し議員を辞職する意向を明らかにしました。

 議会では、辞職については許可しましたが「県議会の調査では限界がある」として、正副議長や主要5会派代表など10人の連名で、野々村氏に対して虚偽公文書作成・同行使の疑いで刑事告発することになりました。しかしながら、議会が議員に対して刑事告発するというこの行為は、少々微妙な問題をはらんでいると言わざるを得ません。

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議会の本来の役割は徹底した調査
 原則論から言うと、議員はその在職期間中については、どのような活動を行うが、経費をどのように支出しようが自由です。つまり議員には、本人の良心に従って行動する権利が与えられているのです。

 というのも議員というのは、国民あるいは県民など、主権者から負託を受けて、立法という権力を行使する特別な立場の人たちです。彼等は法という、国民の権利を保護する最後の砦を担っており、容易に刑事告発されるような事態があってはならないのです。

 これができてしまうと、エジプトの軍事政権のように、軍など特定の官僚組織などが、権力を濫用して議員を逮捕し、独裁政権を樹立するということが起こってしまいます。

 こういう主張すると、悪い議員を野放しにするのかという反論が出てくるのですが、あえて極論を言うと、野々村議員が、仮に100パーセントクロであっても、やはり議員の立場は任期が終わるまでは保証される必要があると筆者は考えます。
 その後の、野々村氏の処遇を決めるのは、県民自身であり、その結果は次の選挙で明らかになるはずです。

 また議会は官庁や自治体、公務員に対するチェック機能を担っています。必要であれば条例を制定する権限も与えられているわけです。
 本来、議会が行うことは、その権限を最大限活用して、できるだけオープンな調査を行うことであり、議員を処罰することではありません。議員に対する扱いはあくまで県民が決めるべきことです。

 それを考えると「議会の調査では限界がある」という議会の説明にはがっがりさせられてしまいます。同じ議員の行動を調査する能力すらないのであれば、もっと強大な組織力を持つ、県庁などの行政組織をチェックし、調査するこなどできるのでしょうか?

 法を制定する権限を持っているはずの議会が、議員の行動に関して十分な調査ができず、本来は自分達が監督すべき行政組織に議員の処罰を委ねるというのは、議会が無力であるということを自ら公言するような行為といってよいでしょう。

 日本では議会制民主主義が機能していないといわれますが、このようなところにも、そういった事情は反映されているのかもしれません。

 議会としては、政務活動費の問題をこれ以上、大きくしたくないと思っている可能性もあります。なぜなら政務調査費は隠れた議員報酬ともいわれているからです。多くの議員が、実質的な生活費として、この費用を使っている可能性が指摘されています。もしそうなのだとしたら、余計に情けない状況といえるでしょう。

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