森友問題のきっかけを作った朝日新聞報道から考える情報リテラシー(前編)

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第4回

 森友問題をめぐる財務省による文書「書き換え」問題は、朝日新聞のスクープ報道が表面化のきっかけでした。この報道から、私たちは情報リテラシーについて多くを学ぶことができます。

 日本人はマスコミに対して過剰な思い入れがあり、その反動のせいか、自分が気に入らない報道を行う媒体に対して、感情的になって批判する傾向が顕著です。
 これは、いわゆる右派、左派(筆者は今の日本では厳密な意味でのイデオロギー論争は成立していないと考えていますが、とりあえず一般的に使われている右派、左派という言葉を使います)問わず、共通の傾向です。

 朝日新聞は過去、誤報という大問題を起こしていますが、今回の報道のように社会の役に立つこともあります。マスメディアというのは、あくまで情報を伝えるビジネスでしかなく、それ以上でも、それ以下でもありません。私たちには、報道を「利用する」というクールな姿勢が必要です。

商業ジャーナリズムという存在を理解する

 近年、「マスメディアは偏った報道ばかりする」といった批判をよく耳にします。報道の中に、意図的かそうでないかは別にして、とても客観的とはいえないものが多数、存在しているのは事実です。

 しかし、マスコミが国民を騙すという明確な意図を持って、常に偏った報道ばかりしているのは、逆にマスコミの力を過大評価しています。現実のマスコミにそのようなパワーはありません。マスコミが偏った報道を行う原因のほとんどは、読者が持っている潜在的な「願望」です。

 筆者はジャーナリスト出身ですから、マスコミがどのようなメカニズムで報道するのか皮膚感覚として理解しています。マスコミを理解する際に重要なのは、彼等の仕事が「商業ジャーナリズム」であるという点です。

 確かにマスコミは「報道」という大きな責任を負ってはいますが、所詮は営利企業に過ぎません。お金儲けのために記事を書いているのであって、崇高な理想を追求するために仕事しているわけではないのです。良い悪いはともかくとして、まずはこの事実をしっかり頭に入れておく必要があります。
 
 マスコミの記者や編集者は、紙媒体であれば何部売れるのか、Web媒体であれば、PV(閲覧数)がいくらになるのか、そればかり考えているのが現実です。例えば、クルマの営業マンは、毎日、何台売れるのかばかり考えて生活していると思いますが、それと大きくは変わりません。

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真に中立的な記事というものは存在しない

 彼等は、毎日たくさんの記事を書いたり、編集していますから、どのテーマをどのようなストーリーで報道すれば、どれだけ数字が取れるのか熟知しています。

 読者の中には無意識的に、このように報道して欲しいというストーリーがあり、読者はそれに合致する記事を無意識的に取捨選択してしまいます。そしてマスコミ側もその傾向に沿った報道を増やしていくのです。結果として、各メディアの紙面は偏った報道ばかりになってしまいます。

 では商業ジャーナリズムでなければ中立的な記事を書けるのかというと、そう単純な話ではありません。

 例えば、ある企業の売上高が昨年より5%増えたという事実があったとしましょう。5%売上高が増えたというところまでは「事実」ですが、5%しか増えなかったのか、5%も増えたのかというのは、人によって解釈が異なります。

 アップルのように成長するのが当たり前という企業であれば「アップル失速!今年の伸び率はわずか5%」となるでしょうし、シャープのような企業でしたら「とうとう増収を達成!」といった見出しを付けるのが適切かもしれません。

 しかしながら、「わずか」「失速」「とうとう」といった一連の表現は、すべて恣意的なものです。では、だからといって、数字だけを掲載して後は勝手に解釈してくださいという記事を皆さんは読もうとするでしょうか。おそらく誰も読まないでしょうし、数字だけでよいなら、企業の決算発表のサイトを見に行けば済む話です。

 つまり、報道には何らかのストーリーや解釈が求められているものであり、100人の人がいれば、ストーリーや解釈が100通り存在してしまいます。厳密な意味で中立という報道は存在しないのです。

 極論を言えば、偏向報道を生み出しているのは、わたしたち読者自身ということになるでしょう。ここで「マスコミに責任はないのか!」などと怒り出す人がいるかもしれませんが、その状態では情報戦争に勝つことはできません。

 マスコミは所詮その程度の存在であるという認識を持ち、偏向報道も情報源のひとつとして利用するという、したたかな姿勢がなければ、情報化社会で有利に立ち回ることはできないでしょう。

 次回は、具体的に報道からどのように情報を読み取るのかについて解説したいと思います。

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