経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. スキル

ホンモノのお金持ちは質素だという話を耳にするけれど・・

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第3回

 世の中には多くのウソが氾濫していますが、お金に関する分野は特にその傾向が顕著です。お金に関する話の大半はウソといってよいくらい、根拠のない話が飛び交っているのですが、そうなってしまうのは、お金に対する強い欲望があるからです。

お金の話になるとほとんどの人が冷静になれない

 誰でもお金は欲しいですから、お金に関する話題ということになると、なかなか冷静に対処することができません。その結果、願望と事実がないまぜになり、多くの人が聞きたい話だけが、あたかも真実のように伝搬することになります。

 その最たるものが「本当のお金持ちは質素である」という伝説でしょう。

 いわゆる成金と呼ばれる人は、これみよがしにブランド物を身につけ、グルメ三昧の毎日を送り、お金があることをいつもアピールしています。一方、ホンモノのお金持ちの人は、こうした振る舞いをせず、毎日の生活は質素で地味であるという話をよく耳にします。

 成金趣味に走るかどうかは、その人の性格やセンスによりますから、お金持ちが皆、成金趣味なわけではありません。しかし、お金を持っているにもかかわらず、金を使わないという人はほとんどいないというのが現実です(周囲から見て散財しているように見えるかどうかはともかくとして)。金額の大小や、支出対象に違いはあっても、所得の高い人は皆、それなりにお金を使っているものです。

 では、なぜホンモノのお金持ちは地味だという伝説が出来上がるのでしょうか。その理由は多くの人が抱いている願望です。厳密に言うと、こうした願望にちょっとした事実が加えられることで、伝説が生まれる結果となります。

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願望にちょっとした真実が加わると伝説が生まれる

 成金趣味の行動は、見ていてあまりよい気分がしないという人がほとんどでしょう(しかしながら、お金を持つと一定割合の人が必ずこうした行動に走ります)。現実には、気分が悪いだけでなく、お金がある人への妬みも加わりますから、当然、反発も大きくなってきます。

 結果として、多くの人の心の中には「本当のお金持ちはそうではないはずだ」という願望が生まれます。これだけではまだ弱いのですが、ここに小さな真実が少しだけ加わることで伝説が生まれます。

 ひとつの例は、土地所有者の存在です。

 日本の場合、富裕層の多くが土地所有者となっています。一等地に土地を持っている人は、ビルを建設するなど事業を運営するようになりますが、そうでないところに土地を持っている人は、土地から莫大な収益を上げることはできません。

 アパートを建てたり、土地を事業者に貸したりするわけですが、場所が悪いとそこからの収益は限定されてしまいます。帳簿上は何億円もの資産保有者なのですが、年収という意味では、エリートサラリーマンと同レベルというケースも出てくるわけです。その結果、土地所有者の生活は質素で地味になりがちです。

 身近にいる富裕層の代表である土地所有者の生活は概して質素であることから、本当のお金持ちは質素であるというイメージが出来上がったものと考えられます。彼等は質素で地味なのではなく、毎年得られる現金収入がそれほど多くないことから、結果として支出も控えめになっているだけです。

 こうしたバイアスは世の中にたくさん存在しており、マスメディアの記事や識者のコメントでもよく観察されますから注意が必要です。

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