新幹線の運賃は高すぎる? 移動の貧困を解消しなければ経済は成長しない(後編)

 前回は、新幹線など公共交通機関の運賃が、日本経済の基礎体力に比して高くなっており、所得が低い人の移動が阻害されている可能性があることについて指摘しました。

 この話を聞くと、いわゆる福祉に関する議論と思ってしまう人も多いのですが、そうではありません。人の移動と経済成長には密接な関係があり、移動が阻害されてしまうと、経済の成長も阻害されてしまう可能性があるのです。つまり移動を支援することは経済政策にもなり得るわけです。

人の移動と経済成長率は比例している

 そもそも日本人は、どのくらい移動しているものなのでしょうか。図は、都道府県間の移動者数が戦後、どのように推移してきたのかを示したグラフです。1950年代から1960年代にかけて移動者数は200万人から400万人に倍増しました。

 この時代はいわゆる高度成長期ということになります。日本の場合、東京一極集中ですから、地方から東京へという移動が圧倒的に多かったことでしょう。首都圏で多くの生産設備が作られ、大量の労働者が必要となりましたが、これが地方から東京への移動を促していたわけです。

 しかし1970年代の低成長時代に入ってから、徐々に人の移動が減り始めました。バブル期に少し上向く気配がありましたが、バブル崩壊後はさらに移動者数が減っています。

 グラフの紫の線は、日本の実質GDP(国内総生産)成長率を示しています。基本的に移動者数の動きとGDP成長率の動きは一致しているといってよいでしょう。つまり人の移動が多いということは、経済が活発であることを意味している可能性が高いわけです。

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ネットが発達したからこそ直接会う価値が増大している

 移動と経済の関係は、経済成長モデルからも説明することができます。

 一般的に経済学の分野では、GDPが成長する要因は3つあるとしています。ひとつは投下資本、もうひとつは投下労働力、そして最後はイノベーションです。特に資本とイノベーションの影響は大きく、過去のGDPの動きを見ても人口増減の影響はそれほど大きくありません。資本の量とイノベーションの活発さが成長率を左右してきました。

 ここで重要となってくるのがイノベーションと移動の関係です。

 よく考えてみれば当たり前のことですが、同じ場所で連続してイノベーションが発生するとは限りません。大阪を拠点とする企業で技術革新があった場合、人材需要の分布が変わり、東から西に人が移動することになります。

 当然、その逆もあり得ます。つまり人の移動が制限されるとせっかくイノベーションがあっても、それを生かせず、十分な成長につながらないわけです。

 最近はネットが発達しているので移動の必要がなくなったとの見解もありますが、必ずしもそうとは限りません。米国では、先端的なIT企業が拠点を構えた街には、各種のサービス業が集積し、結果的に労働者の賃金が上昇するという傾向が顕著となっています。

 スマホ時代を迎え、簡単に情報のやり取りができるようなったことで、逆に人と会って情報交換する価値が高まっているのです。通信手段を駆使できるはずの先端的なIT企業が、こぞって同じエリアに集積することには理由があります。やはり移動を自由にすることには大きな効果があると考えた方がよいでしょう。