経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

通勤時間を短くすれば、日本の生産性は劇的に向上する

 日本人の働き方にはムダが多く、これが生産性を引き下げていると言われていますが、改善する対象が会社の中の業務だけとは限りません。実は日本人の通勤時間は突出して長く、これが生活全般を圧迫している可能性があります。通勤時間を短くできれば、ニッポンの生産性は劇的に向上するでしょう。

東京都心の人口密度はパリやニュヨークの半分しかない

 日本人の通勤時間が長いというのは想像できる話ですが、数字で比べると一目瞭然です。日本人労働者の平均的な通勤時間は米国や英国の2倍近くもあります。日本人は労働時間も諸外国より長いですから、仕事と通勤で大半の時間を消費しているわけです。

 1日は24時間しかありませんから、犠牲になっているのは睡眠時間や家族と過ごす時間ということになるでしょう。実際、日本人の平均睡眠時間は米国より1時間短くなっており、子供とふれあう時間は英国の半分以下です。プライベートな時間が充実していないと、関連する消費も活発になりませんから、結局は自国経済の首を絞めてしまうのです。

 内閣府の調査によると、通勤時間を金額換算した場合、例えば神奈川県に住む人は、年間100万円を通勤に投じている計算になるそうです。これは架空のコストではありますが、この状態では、日本人の生産性が高まらないのも当然といえるかもしれません。

 このような話をすると「日本は土地が狭いのでやむを得ないのだ」という批判をよく受けるのですが、これは根拠のないイメージに過ぎません。算定の方法にもよりますが、東京の人口密度は諸外国と比較して特別に高いわけではないのです。

 人口密度はどの範囲で算定するのかで結果が大きく変わってきます。東京の人口密度が高いと算定されるのは、単純な行政区分での比較や、周辺都市を加えたケースがほとんどです。

 東京都心やロンドン中心部、マンハッタン、パリ市といった中枢エリアで比較した場合、東京の人口密度はパリやニューヨークの半分しかありません。実際、パリやニューヨークの中心部には多数の市民が住んでいます。最近は都心回帰で中心部に住む人も増えていますが、東京都心の夜間人口は昼間と比べると激減してしまいます。

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通勤時間を短くするメリットは計り知れない

 日本の通勤時間が長いのは日本の住宅制度と密接に関係があります。

 日本の住宅は新築偏重となっており、中古住宅の市場があまり整備されていません。新しく宅地開発できる場所は郊外しかありませんから、通勤時間は際限なく長くなってしまいます。都市部に良質な賃貸住宅を提供する施策を怠ってきたことも影響しています。

 この状態を国家レベルで解消するためには様々な施策が必要ですが、個人レベルでも対処する方法はあります。

 賃貸の人はできるだけ近いエリアの物件を探す工夫をした方がよいですし、住宅購入を検討している人は、新築にこだわらず、近い場所にある中古物件を候補に入れるべきでしょう。遠い場所に住宅を買ってしまった人でも、在宅勤務が可能な職場に転職するなど、方法がないわけではありません。

 筆者は10年以上前から職住接近を実施していますが、実際に通勤時間がなくなることのメリットは計り知れないものがあります。実際にやってみると、想像をはるかに超える利益をもたらしてくれるでしょう。

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