経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

貧困は自己責任なのか?(前編)

 上方落語の桂春蝶さんによる「貧困は絶対的に自分のせい」というツイートが物議を醸しています。貧困が自己責任なのかについては様々な意見がありますが、日本で貧困問題が深刻になっている最大の原因は、日本全体が貧しくなっていることです。この状態を改善しない限りは、貧困を本人の責任にしても、問題は解決しません。

日本の貧困率の高さは先進国でトップクラス

 春蝶さんは2月20日、自身のツイッターで「世界中が憧れるこの日本で「貧困問題」などを曰う方々は余程強欲か、世の中にウケたいだけ」「この国での貧困は絶対的に「自分のせい」なのだ」とつぶやきました。これに対しては批判が殺到し、ちょっとした炎上騒ぎとなってしまいました。

 春蝶さんは別のつぶやきで、「世の中に感謝することが重要」という趣旨の発言も行っていますから、障害や病気などやむを得ない理由で貧困に陥っている人までを否定するつもりはなかったようです。しかしながら、春蝶さんの認識にはかなりの誤りがあります。

 春蝶さんは「この国では、どうしたって生きていける」「働けないなら生活保護もある」と説明していますが、残念ながら現実は異なります。

 日本の相対的貧困率は先進国では突出して高く15%を超えています。これは苛烈な競争社会である米国と同程度であり、1ケタ台がほとんどである欧州各国と比較すると雲泥の差があります。

 相対的貧困率は実態と乖離しているとの批判もありますが、今のところ、この相対的貧困率ほど貧困の状況を的確に示す指標は存在していません。
 日本の等価可処分所得の中央値は約245万円となっており、貧困レベルはこの半分の123万円以下ということになります。家族の人数で調整されたものではありますが、この金額で普通の生活が成り立たないことは明白であり、実態と乖離しているとはいえないでしょう。

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支援を必要とする人の多くが生活保護を受給できていない

 このような厳しい状況にある人が2000万人近くもいるというのは、やはり大きな問題といってよいでしょう。自己責任論以前の問題として、先進国としてはあってはならない状況です(日本が先進国であればの話ですが)。

 春蝶さんが言うように生活保護を受ければよいのかというとそうもいきません。日本の生活保護の捕捉率は20%以下といわれており、支援を必要とする人のほとんどに行き渡っていません。
 
 2017年12月時点における生活保護の受給者数は214万人、世帯数は164万世帯となっています。貧困に陥っている人が2000万人弱存在しているにもかかわらず,受給者数は214万人ですから、捕捉率が20%以下というのはほぼ間違いないでしょう。

 生活保護の受給者はバブル崩壊後からうなぎ登りに増えている状況で、国内の生活環境が悪化しているのは確実です。

 日本において貧困の問題が深刻化している最大の原因は、日本全体が貧しくなっているからなのですが、このあたりについては次回に解説したいと思います。

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