加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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ニュースの匿名インタビューと日本社会

 

 放送倫理・番組向上機構(BPO)という組織が、テレビニュースにおける安易な顔なし、匿名インタビューが多いとして、テレビ局に「顔出しを原則とすべきだ」という談話を発表しました。
 確かに日本のニュース番組には顔出しなしのインタビューが多いのですが、この現象は日本社会の特徴をよく表しています。

日本では名乗ることにリスクがある?
 テレビのニュース番組で顔が映っていなかったり、モザイクがかかっているのは、取材に応じる人が、基本的に顔出しを望まないからです。何か事件があった時、近所に取材しても、顔出しOKで取材に応じてくれる人はなかなかいません。

 記者が聞く内容は、ごくごく一般的なことであっても、多くの人は、周囲の目を気にしており、自分が誰であるのか特定されることを嫌がります。そのままではニュース番組にならないので、必然的に顔なしやモザイクという形になってしまうわけです。

 BPOでは、これが信頼性の低下につながっていると指摘していますが、このことは当然、プロであるジャーナリストは百も承知でしょう。しかし現実にインタビューに応じてくれる人がいない以上、そうならざるを得ないというのが現実と思われます。

 米国や欧州のニュース番組では、インタビューを受けた人は基本的にすべて名前が出ます。名乗って取材を受けるわけですから、顔出しも基本的にはOKです。
 報道の原則として、その人に危険が及ぶケースを除いては、取材対象者を公開することが原則となっていますし、それ以前に、インタビューに応じた本人に、自身の存在を隠すという概念がほとんどありません。

 日本はムラ社会ですから、その内容がどんなものであれ、自分の意見を公にすることには、一定のリスクを伴います。こうしたことが背景になって、顔なし、名前なしのインタビューという独特の習慣が生まれたものと考えられます。

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匿名性が立場の強い人に悪用されると厄介なことになる
 日本では、匿名の掲示板がネット社会で大きな役割を担っていますが、こうした匿名サイトが活発なのは、人権が保護されない国がほとんどで、先進国ではあまり見かけません。これも基本的には同じカルチャーが原因になっていると考えられます。

 その意味で、BPOの意見は、報道の現場を適切に理解したものとはいえないかもしれません。ただ、顔を出すことがためらわれる社会というのはやはり息苦しいものであり、わたしたちは、そうではない社会をめざしていく方が望ましいというのは事実でしょう。

 報道の現場で匿名が当たり前になっていると、別な弊害もあります。本来、報道に対して適切に説明する義務のある公務員や準公務員、社会的責任を負った企業の社員などが、匿名性を利用して責任を回避するケースが増えているのです。

 取材の窓口になっている企業や役所の担当者が、名前を聞いたジャーナリストに対して、居丈高に「プライバシーがあるから名乗る必要はない」などと言い放つケースは日本ではよくあります。

 同じ人物が、海外メディアからの取材の時には、腰を低くして名前を名乗っています。海外の報道では、広報担当者のコメントでも、多くの場合、名前が出てきますが、日本ではそういったケースはほとんどありません。

 匿名性は立場の弱い人を守るという意味では、それなりの意味があるのですが、それが立場の強い人に悪用されてしまうとたいへんやっかいです。

 中国では、共産党本部や中央政府(国務院)などで働く人の名刺には、自分の名前しか書いていないという話があります。どこの所属で、連絡先はどこなのか、いちいち一般国民に知らせる必要などないというわけです。

 日本はそのような国にはなってほしくありません。

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