経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資教室

業績相場とPER

加谷珪一の投資教室 第13回

 PER(株価収益率)は、市場の環境が同じであれば、同じ数字を適用することが可能です。しかし、長いタームでは市場の環境が変わりますし、2~3年というタームでもPERは徐々に変化していきます。

 アベノミクスの期間中(2013年~)、基本的に株価は上昇しましたが、前半と後半では雰囲気が違っています。

 安倍首相の就任以後、株価は急上昇しましたが、この時点では企業業績がどう変化するのか分かっていませんから、EPS(1株あたりの利益)は変化せず、PERだけが急上昇しました。
 つまり期待値が大きく上がったわけです。安倍首相の就任前、12倍程度だったPERは一時20倍を突破しています。

 しかし、米国の好景気によって企業業績が上向き始め、ESPが上昇すると、PERは低下しています(15倍程度)。つまり期待が現実となったので、期待値も落ち着いたわけです。
 その後、しばらくは業績の拡大に伴って株価が上昇していましたから、PERはあまり変化していません。期待値ではなく業績の拡大で株価が上昇する局面を業績相場と呼びます。

 しかし、2015年に入ると中国経済に対する不安などから、株価が下落し、企業業績も横ばいが続きました。EPSは変わっていませんから、PERが下がってきたわけです。その後、PERは14倍~15倍程度で推移してきましたが、2017年からは再び株価が上昇しています。






 

 これは、米国景気がさらに拡大し、日本企業の業績予想が上向いたからです。このため、PERが変わっていないにもかかわらず、予想EPSが伸び、株価が上昇したのです。

 このように数年というタームにおいても、株価の評価基準は変わり、期待先行から業績相場へ、そして再び期待先行へとシフトしていきます。投資で勝ち続けるには、潮目の変化を読み取る必要がありますが、PERはこうした見極めには最適の指標といえるでしょう。

 一方、同じような株価の上昇が見られた2003年から2007年にかけての小泉相場は、基本的には業績相場が中心です。小泉相場が始まる直前の2003年は金融危機すら囁かれた状況ですから、企業業績は最悪でした。
 今回と同様、米国の好景気に支えられ、企業業績が急拡大したことで、株価も急上昇しました。このような相場ではPERは低下が続きますが、株価は上昇を続けます。

 ちなみに1980年代のバブル相場では、1985年から1989年の日経平均上昇分のうち、業績による部分は約3割で、残りは将来への期待値が占めていました。

 つまり企業業績ではなくPERの上昇が主体となって株価を押し上げたわけです。

 当時は、プラザ合意をきっかけに日銀が低金利政策を実施。大量のマネーが市場に供給され、これがバブルの原因となりました。
 このように金融面での動きが株価上昇の原動力になっている相場を金融相場と呼びます。本来であれば、量的緩和策は同じような効果を発揮するはずですが、そうなっていはいません。

 現在の日本経済はかなり硬直化しており、こうした金融面の変化が効果を発揮しない構造になっていると考えられます。

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