加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

*

クルーグマン教授との会談を官邸側がオフレコにしたかった理由

 

 非公開を前提にしていた安倍首相とポール・クルーグマン教授の会談内容をクルーグマン氏が公開してしまうという「想定外」の出来事がありました。
 オフレコを要請すれば相手は必ず従ってくれると考えてしまう、日本にありがちな判断ミスですが、それはともかくとして、安倍首相は会談内容のどの部分を公開されたくなかったのでしょうか。

安倍首相がオフレコを念押ししたのはドイツに関する部分
 今回の会談の目的は、ズバリ、消費増税の再延期について経済学の権威から後押しを得ることにあります。しかし、そのことが露骨に示されてしまうのはあまり官邸にとってあまり望ましくありません。その意味で会談全体を非公開にしたかったのだと思われます。

 もうひとつは安倍首相の個別の発言です。安倍首相は、会合全体が非公開という前提であるにもかかわらず、ある部分についてはさらに念押しするように、クルーグマン氏に「オフレコで」と前置きしています。それはドイツの財政出動に関する部分です。

 今年の5月に予定されている伊勢志摩サミットでは、世界的な景気停滞懸念に対処するため、積極的な財政出動が議論される予定となっています。日本は今回の会合における議長国ですから、安倍首相はここでリーダーシップを発揮し、政権浮揚のきっかけにしたいと考えています。

 クルーグマン氏によると、安倍首相は「ドイツに対して財政出動を説得したい」と発言し、「そのためによいアイデアはないでしょうか?」と質問しています。
 しかしクルーグマン氏は「難しいでしょう」とこれを一蹴。さらに「華麗な外交は私の専門ではない」と発言しています。実際の発言を聞いたわけではないので確かなことは言えませんが、外交の得点稼ぎに利用して欲しくないというニュアンスが感じられます。

 世界のトップが集まる交渉の場での駆け引きについて、事前に、しかも外国の人に相談してしまったのは、確かに軽率だったといってよいでしょう。また日本が財政出動についてドイツを説得するという図式も、少々リスキーなことです。

kurugumanabe

財政出動強化において日本の立ち位置は微妙
 ドイツは好調な経済と財政再建の実施によって、2015年度の予算から新規の国債発行が事実上ゼロとなりました。つまりドイツは税収だけで支出をまかなうことが可能となっているのです。
 安倍首相としては、ドイツは財政出動余地が大きいことから、世界経済のためにドイツが財政出動に積極的になるよう、説得するという算段のようです。

 しかし、ドイツは先進各国の中でも、財政規律にとりわけ厳しいことで知られています。一方、日本は突出した財政赤字を抱えている状況で、ドイツとは正反対です。ここでドイツに対して財政出動を催促するような形になれば、下手をすると、日本の財政は大丈夫なのかという話にもなりかねません。

 今回のサミットでは、財政出動がひとつの焦点になっているものの、日本だけは、財政赤字の問題からリーダーシップを発揮できないという矛盾を抱えています。ドイツを説得して、全世界的な財政出動の流れを作り、それをきっかけに大型の補正予算を組むというシナリオなのかもしれませんが、うまく進めることができるのか微妙なところです。

 日銀の量的緩和が続く限り、財政を拡大しても、当面、金利は低いままで推移するでしょう。しかし、政府が掲げるプライマリーバランスの目標を後退させるようなことになれば、将来の金利上昇リスクは確実に上昇します。

 ひとたび金利が上がってしまえば、日本は超緊縮財政を余儀なくされてしまうでしょう。今は低金利ですが、将来の金利上昇リスクについては、敏感すぎるくらいがちょうどよいはずです。

 - 政治, 経済 , , ,

  関連記事

pikechirg
ピケティのr>gで得をしているのは実は庶民?

 ピケティの資産格差に関する話題が、まだまだ盛り上がっているようです。本コラムで …

abe20140825
石破氏が無役になれば早期解散の可能性が高まる

 自民党の石破幹事長が、安倍首相が求める安全保障担当相を辞退する可能性が高まって …

gdpkaiteichi
7~9月期のGDP改定値が上振れ。しかも大臣が事前に見通しを披露?

 内閣府は2015年12月8日、2015年7~9月期のGDP(国内総生産)改定値 …

ukflag
スコットランド独立問題が問いかける国家の概念

 スコットランド独立の賛否を問う住民投票は、結局、賛成が45%、反対が55%なり …

chikirin
「日本は過保護の国」論のデジャブ

 著名ブロガーのちきりん氏が「日本はおこちゃまの国」と題する記事をブログに執筆し …

toshokanban
野村証券、定年延長の背景にあるのは投資家の高齢化?

 証券業界大手の野村証券が、国内営業を担当する正社員の定年を60歳から65歳に延 …

togikai
収束しない都議会ヤジ問題。背景には何が?

 東京都議会のヤジ問題がなかなか収束しません。みんなの党会派の塩村文夏(あやか) …

nichigin2014
株価とアベノミクスは正念場を迎えている

 日本の株式市場が正念場を迎えています。日経平均は8月8日、前日の終値から450 …

jinkochino4111
人工知能が普及する現実の姿を想像してみよう

 人口知能やロボットの導入によって、日本の仕事の半分が消滅するという野村総研のレ …

ionokayaka
都市型イオンモールが地方創生のカギになる?

 安倍政権における重要課題のひとつである、地方創生が徐々に動き始めています。先の …