加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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原油価格下落のメカニズムと経済への影響を考える

 

 原油価格の下落が、世界中の投資家心理を急激に悪化させています。安い原油価格が、実体経済に悪影響を及ぼすとの懸念も出てきており、余談を許さない状況です。
 確かに原油価格の下落は、株式市場や債券市場に連鎖反応を引き起こします。ただ、実体経済への影響はプラス面とマイナス面の両方があり、どちらが強くなるのかは何ともいえません。原油価格決定のメカニズムや実体経済への波及経路について、冷静に見極めることが重要です。

中東は主要な石油産出国ではない
 原油価格の動きを知るには、まずは産油国の動向を知る必要があります。石油のほとんどは中東で産出されると思っている人が意外と多いのですが、現実は異なります。現在、世界でもっとも原油を大量に生産しているのは米国です。
 米国の生産量は1日あたり1200万バレルで、2位のサウジアラビアを若干上回っています。3位はロシアで約1100万バレルの生産量があります。サウジアラビアは2013年まではトップの生産量でしたが、米国でシェールオイルが増産されたことから、2位に転落しました。

 米国、サウジアラビア、ロシアの産出量を足し合わせると3500万バレルとなり、これは全世界の原油産出量の4割を占めます。中東の産油国をすべて足し合わせても全体の3割にしかすぎませんから、3カ国のシェアが突出して高いことがお分かりいただけるでしょう。

 原油価格のニュースでは、OPEC(石油輸出国機構)の会合がよく取り上げられますので、OPECが原油市場に絶対的な影響力を持っているように思われますが、現実はそうでもありません。OPECの中でも突出した産出量となっているサウジアラビアの影響力が大きいと考えるべきでしょう。

 一方で、ロシアは産出量は多いのですが、採掘コストが高く、自国内にグローバルに通用する市場がないという欠点があります。結果的に、米国とサウジアラビアの動向でおおよその原油価格が決まってくるという図式になっています。

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米国が原油安を放置するのは政治的な理由もある
 今回、原油価格が暴落している直接の原因はサウジアラビアが減産しないからです。米国でシェールオイルが増産され、需給が緩むとの観測が強まる中、サウジアラビアは減産に応じず、体力勝負に出ているわけです。
 ロシアなど他の産油国の採掘コストは非常に高く、現在の価格水準ではとてもビジネスになりません。サウジアラビアとしては相手が自滅してくれるのを待つ戦略です。

 米国のシェールオイルも、当初はロシアのように採掘コストが高く、原油価格が下がれば撤退が相次ぐとみられていました。しかし技術の進歩で採掘コストの低下が進み、40ドルでも利益の出る油井が増えてきているといわれます。
 倒産する事業者も増えているのですが、意外と米国の原油もコスト競争力があり、サウジとの体力勝負は長期化する様相を呈しています。

 さらにいうと、米国とイランが歴史的和解を実現したことも大きく影響しているでしょう。
 イランは、今のところ1日あたり360万バレル程度の生産力ですが、最大で100万バレル程度の増産が可能といわれています(油井への再投資が必要であり、そう簡単に生産量は戻らないとの主張もあります)。これによってさらに供給過剰になるとの思惑から、投機筋が動いたことで、価格下落に弾みがついたようです。

 米国にとって、イランとの和解が進むことや、ロシア経済が苦しくなることは、政治的に大きなメリットがあります。自国のシェール事業者の中には価格下落に苦しむところもありますが、原油安を放置しているのは、政治的な理由があるのかもしれません。

コスト低下のメリットと市場混乱のデメリットの綱引き
 原油価格が下落すると、産油国に対するエネルギー代金の支払額が減少しますから、先進国経済にとっては大きなメリットになります。原油価格が100ドルから30ドルに下落すると、先進各国には約100兆円の富がもたらされます(純粋に原油価格の下落分のみをカウント)。

 一方、産油国の経済は石油収入の減少で悪化しますし、なにより投機資金が引き上げてしまうことで市場には大打撃となります。ロシアは原油価格の下落によって通貨ルーブルが暴落し、10%のインフレが発生するなど、まさに大混乱です。
 こうした市場の混乱は、今度は先進国の金融市場に波及してくることになります。ポジションの一定割合をキャッシュに換えようとする投資家が増えることが原因です。

 最終的には原油価格下落によって先進国が享受するメリットと、市場の混乱で投資がシュリンクし、これが実体経済に与える影響との綱引きになるでしょう。基本的には米国の個人消費が衰えなければ、それほど悲観する必要はないと思いますが、市場では何が起こるか分かりません。

 予想以上に資産価格が下落し、これが消費や投資の抑制につながって、実体経済を悪化させてしまうというリスクについては、多少、意識しておいた方がよいでしょう。

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