加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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大型客船に続いてMRJも。三菱重工の納期トラブルから考える同社の本当の姿

 

 三菱重工で相次いで納入延期のトラブルが発生しています。米国のクルーズ会社から受注した大型客船の納入を3度にわたって延期したほか、半世紀ぶりの国産ジェット旅客機であるMRJ(三菱リージョナルジェット)についても4度目の納入延期を発表しました。

大型クルーズ客船事業において、すでに1300億円の損失
 同社は2011年、米国のクルーズ会社であるカーニバル社から2隻の客船を受注しました。総トン数12万5400トン、3300人乗りの大型船で、本来であれば2015年3月に納入する予定だったものです。しかし同社は2015年9月に延期すると発表、その後、同年12月に再延期すると発表したものの、さらに2016年3月まで延期する見込みとなっています。

 造船事業は韓国企業などの追い上げで苦しい状況にあり、同社は難易度の高い大型客船にシフトするという戦略を掲げています。今回受注した船は、カーニバル社における新型船の1番船と2番船であり、今後の継続受注を得るための戦略的プロジェクトと位置付けられていました。

 1番船は仕様変更などのリスクがあり、そのあたりも考慮した価格設定を行うのが普通といわれていますが、一部の報道によると、今後の継続受注を優先し、あまり細部を詰めずに受注してしまったようです。結局、カーニバル側が求める仕様に合致せず、工事のやり直しが続出、すでに1300億円の損失を計上する状況となりました。2隻合計の受注金額が1000億円なので、すでに損失額が受注金額を超過している状況です。

 同社は2002年にも、建造中の大型客船を炎上させるという事故を起こしており、この時にも大きな損失を計上しています。つまり、大型客船事業における失敗は2度目ということになるわけです。今回、カーニバル社は、3隻目以降については欧州の造船会社に発注した模様であり、三菱が連続受注できる見込みはほぼなくなりました。

mrjenki

MRJは初飛行も、4回目の納入延期
 同社は、半世紀ぶりの国産旅客機であるMRJの納入も延期を繰り返しています。同社の航空機製造部門である三菱航空機は2015年12月24日、MRJの納入予定を当初の2017年4~6月から2018年半ばまで、1年ほど延期すると発表しました。納入延期はこれで4回目となります。

 同機は初飛行には成功しているのですが、主翼が必要な強度に達しておらず、型式証明を取れないことが判明したことで今回の納入延期となりました。日本にとっては初めてのジェット旅客機ですから、トラブルが発生するのは当然のことであり、その意味では、客船事業における納入延期とは質的に異なる話かもしれません。

 しかし、かつては高付加価値事業の象徴であった航空機製造の分野にもIT化やコモディティ化の流れが押し寄せています。現在は飛行試験を可能な限り実施せず、シミュレーションを中心に航空機を開発・製造することが可能となっており、航空機に対しても究極的な低コスト化が求められている状況です。こうした環境において、納入が何度も遅れることは、ビジネスにおいて大きなマイナス要因となるでしょう。

 MRJは、リージョナル・ジェットというカテゴリーに属する航空機なのですが、この市場ではブラジルのエンブラエル社が高いシェアを維持しています。エンブラエル社は2020年に新型機を投入する予定となっており、三菱はそれより早く市場に投入しなければなりません。これ以上、納期延長が続くことになると、エンブラエル社との新型機と直接競争となる可能性もあり、後発の三菱にとっては不利な状況です。

三菱重工はどんな会社なのか?
 こうした事態に対して、一部からは同社の経営は大丈夫なのかという声も聞こえてきます。大型客船は同社が戦略事業として位置付けてきたものですし、MRJに至っては、日本政府が開発から販売まで全面的にサポートしていますから、まさにオールジャパンともいうべきプロジェクトです。こうした声が出てくるのは当然の結果でしょう。

 しかし三菱重工の事業構造全体を見渡してみると、航空機や大型客船はごく小さな事業分野に過ぎません。同社の売上げのうち4割はエネルギー・環境分野、3割は機械・設備となっており、しかも利益のほとんどはこの2つの事業から生まれています。
 仮に大型客船事業やMRJで躓くことがあっても、同社全体への影響はそれほど大きくはないでしょう。三菱重工は国家の防衛を担う企業というイメージがありますが、防衛部門の売上げも全体の1割強に過ぎないのが現実です。

 冷静に事業構造を分析すると、同社は地味な機械・設備メーカーということになり、この地味な事業こそが同社の利益の源泉となっているわけです。
 同社の経営陣も、航空機事業や大型客船事業など、世間からの注目を集めやすい派手な事業について、社外にアピールしたいという気持ちを持っているかもしれません。しかし、こうした事業を本気で展開するのであれば、やはりしっかりとした収益を上げなければ意味がありません。

 同社が対外的にアピールするこうした戦略的事業と経営実態との乖離について、多少の違和感を感じているのは、筆者だけではないと思います。利益を上げているこうした既存事業をしっかり底上げすることが、同社にとってもっとも大事なことでしょう。

 - テクノロジー, ビジネス

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