経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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意外にも堅調な世界経済と伸び悩む株価。実質的に利上げは始まっている?

 ギリシャ債務問題や中国株の下落など、不安定要素だらけに見える世界経済ですが、足元の景気は意外にもしっかりしているようです。
 米国は年内の利上げを予定しており、その時期をめぐっては様々な意見があります。しかし、市場はすでに利上げを織り込んできており、実際に利上げが行われた時のインパクトは案外小さいかもしれません。

米国の4~6月期GDPは堅調
 米商務省は2015年7月30日、4~6月期のGDP(国内総生産)速報値を発表しました。物価の影響を除いた実質で前期比2.3%増(年率換算)と、市場予想は若干下回りましたが、米国経済の順調な回復を裏付ける結果となりました。今後の経済指標次第という状況に変化はありませんが、年内利上げの環境はさらに整ってきたといえそうです。

 成長をリードしたのは旺盛な個人消費です。自動車の販売が伸びていることなどを背景に前期比2.9%の伸びとなり、住宅も好調で6.6%と大幅増となりました。米国人はガソリンを大量に消費しますから、原油価格の低下は消費にダイレクトに効いてきます。

 原油価格の低下を背景に、米国ではこのところ大型自動車の販売が好調です。あるストラテジストも、米国出張に行ったところ、大型の新車がバンバン走っていたとコメントしていました。

 一方、民間設備投資は0.6%のマイナス。原油安でエネルギー関連の投資が減ったことが大きく響きました。今回のGDPの結果から、米国経済の個人消費へのシフトがさらに明確になったといえるでしょう。

 米FRB(連邦準備制度理事会)は年内に利上げを実施するとしていますが、具体的な時期に関する市場関係者の意見は分かれています。前日に公表されたFOMC(連邦公開市場委員会)声明では、時期に関するメッセージはありませんでしたから、9月利上げの可能性も残された状況です。

 一方、ギリシャ債務問題などでかなり重苦しい雰囲気になっているというイメージのある欧州ですが、全体的な経済状況は意外と堅調です。
 ユーロ圏における2015年1~3月期の実質GDP成長率はプラス0.4%(年率換算1.6%)でした。2014年の7~9月期はプラス0.2%、10~12月期はプラス0.3%でしたから、着実に成長ペースが拡大しています。

 消費者物価指数(前年同月比)も、年初まではマイナスもしくは横ばいだったのですが、6月はプラス0.2%、7月もプラス0.2%とプラス転換しました。エネルギーを除くと物価上昇率は1%近くになります。

 欧州では債務危機以後に構築された各種のセーフティネットがうまく機能しており、ギリシャ問題と市場はうまく切り離されているようです。スペインではほぼ不良債権処理が完了し、割安な不動産を求めて欧州各地から再び投資が集まっています。

riagekankyo

冴えない株価は、実質的な利上げのスタートを示唆している
 経済指標はおしなべて好調なわけですが、株価はあまり敏感に反応していません。ニューヨーク株式市場は、このところ冴えない展開が続いています。
 利上げに慎重な人からは、低調な株価やドル高を理由に利上げは見送るべきとの意見が出ています。一方、低調な株価やドル高は、実質的に利上げが始まっていることの証拠であるとの解釈もあります。

 FRBはこれまでに何度も利上げについて言及してきましたから、かなりの確率で年内に利上げを実施するでしょう。このため市場は利上げを織り込んで動いている可能性があります。

 市場が利上げを意識してドル高が進むと、金融引き締めと同じ効果が出てくるため、実質的に利上げを行ったのと同じ状況になってきます。当然、株価もこれに反応し軟調な展開となるでしょう。つまり、米国経済は事実上、利上げの局面に突入していると解釈することも可能なのです。

 もしそうなのだとすると、利上げの時期はそれほど問題ではなく、重要なのは利上げのペースということになります。
  最初の利上げはごく小さい幅で、その後の上昇ペースは緩やかにというのがFRBのメインシナリオと考えられますが、このシナリオ通りであれば、仮に9月に利上げが実施されても、市場へのインパクトはそれほど大きくないでしょう。

 逆に、利上げの時期が遅くなった場合には、むしろ来年以降のインフレが懸念されることになり、利上げペースは思いのほか早まるかもしれません。市場へのインパクトはこちらの方が大きい可能性もあります。

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