加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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宅配事業者が不必要となる?米アマゾン新サービスのインパクト

 

 米アマゾンが、宅配事業者ではなく個人に商品配送を依頼することについて検討しているそうです。米国ではあらゆる分野の業務が個人に開放されつつあるのですが、こうした動きは社会システム全体を激変させる可能性があります。わたしたちの仕事のあり方も根本的に見直す必要があるかもしれません。

荷物の配送を無数の個人に開放
 米メディアの報道によると、米アマゾンは、アプリを使って個人に荷物の配送を依頼するシステムを開発しています。これに登録した個人は、自分が移動する予定の地域に配送予定の商品が存在した場合、宅配業者の代わりにその商品を顧客に届けるという仕組みです。配送が完了すると、配送料をもらうことができます。

 実はこうしたサービスはすでに米国では当たり前の存在になりつつあります。以前、このコラムでも紹介したRoadieというアプリは、荷物を送りたい人と、荷物を運びたい人をネット上でマッチングするためのサービスです。自分が出張するついでに、お小遣いをもらって荷物を配送するという人が増えているのです。

 もともと米国では、掲示板などを使ってちょっとした仕事を他人に依頼するというのは、ごくありふれた光景でしたから、こうしたサービスはアプリを使ってシステム化しただけです。

 ただ、アマゾンの流通量は莫大ですから、もし同社が本格的にこの分野に参入した場合、個人に委ねられる割合がごく一部だとしても、大きなインパクトとなるでしょう。アマゾンの参入をきっかけに、個人への業務委託が一気に加速するかもしれません。

 こうした動きが拡大してくると、どのようなことが起こるでしょうか。まず考えられるのは、サービス業を手がける企業規模の大幅な縮小です。

 例えば、ヤマトや佐川といった運送事業者や郵便局は、全国に配送網を確保するため、莫大な設備投資を行い、多くの人員を雇用しています。
 しかし、ネットで荷物を送りたい人と、運びたい人をマッチングすれば、荷物の移動の一定割合いは個人間のやり取りだけで済んでしまいます。そうなってくると、こうした運送事業者は今のような規模の配送センターや人員を確保する必要がなくなります。結果として事業の規模が大幅に縮小する可能性があるわけです。

 これは何も配送の分野だけにとどまるものではありません。タクシー配車サービスのUBERは、個人の乗用車をタクシー代わりにして顧客を乗せたいドライバーと安くタクシーを利用したい個人をマッチングするサービスを始めているのですが、既存のタクシーのビジネスが脅かされるとして、世界各地でトラブルになっています。

 日本でも名前が知られつつありますが、Airbnbというサービスを使えば、自宅の一室や投資用マンションを、宿泊用に提供することができます。Airbnbを使って自宅を民宿代わりに提供し、サラリーマンの年収を上回る副収入を得ている人もいます(実はこうした行為は日本では法律違反なのですが、今のところ、現実が法の規制に先行してしまっている状況です。今後、日本でこの扱いがどうなるのかは不明です)。
 本格的に普及してしまうと、サービス水準の低いホテルや旅館にとっては大打撃となるでしょう。

amazonhaiso

壮大なムダは実は雇用を生み出していた?
 こうした新しい社会システムが普及してくると、これまで存在していた仕事の多くが、実はムダな存在だったということにもなりかねません。多くの人にお小遣いを稼ぐチャンスが出てくる一方で、多くの雇用が失われる可能性があるかもしれないわけです。

 個人に開放される業務のほとんどは、付加価値が低く、大きな対価は発生しないものです。そうなってくると、仕事の機会は増えるものの、労働者が受け取る賃金は全体として低下するという現象が起こるでしょう。こうした仲介業務で大きな利益を上げる人が出てくる一方、社会にムダが存在したことがメリットだった人の立場は大幅に低下してしまいます。

 規制が厳しい日本は特にそうですが、こうした既存のビジネスを脅かす存在に対しては、これを拒否するという動きが出てくる可能性があります。しかし歴史が証明しているように、有益なツールが登場してくると、たとえ、どんなに感情的な反発があっても、それは社会に浸透していくことになります。おそらくこうしたマッチング・サービスも同じ結果となり、反発があっても普及が進んでくると考えられます。

 このところ人工知能の能力向上が著しいですが、人工知能の普及はこうした動きにさらに拍車をかけることになるはずです。

 このような新しい時代においては、より付加価値の高いサービスを生み出すための努力が求められます。今まで100人の雇用が必要だった業務が50人の雇用で済んでしまうわけですから、残りの人材は、付加価値の創造に回さなければいけないのです。

 個人であっても国家であっても、これからの時代のカギを握るのは、新しい付加価値の創造ということになりそうです。そのためには、単純な知識ではなく、複数の知識を有機的に組み合わせるための知性、分かりやすくいえば「知恵」が非常に重要となってくるのです。

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