経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

再び巨額赤字に転落したシャープ。減資と2000億円の増資をどう見る?

 注目されていたシャープの2015年3月期の決算が発表となりました。事前に報道されていた通り、最終損益は2223億円という巨額赤字になりました。すでに同社は累積で1兆円以上の損失を計上しており、今期の赤字によって、同社の自己資本はほぼゼロとなります。

 このため同社は、1200億円だった資本金を5億円にする減資策と、2000億円以上の優先株による増資策も併せて発表しました。しかし、増資で得た金額のほとんどは銀行への返済に回ってしまいますから、経営面で大きな進展があったわけではありません。

なぜ1億円までの減資だったのか?
 2015年3月期の売上高は、前年同期比5%減の約2兆8000億円、営業損益は約480億円の赤字です。さらに、液晶の主力生産拠点である亀山工場の減損処理によって1500億円近くの特別損失を計上。最終損益は2200億円を超える巨額赤字となりました。

 今現在、同社は約1200億円の資本金と960億円の資本準備金を持っているのですが、今回、赤字を計上したことによって、これらはすべて吹き飛んでしまいます。このままでは同社の資本金はなくなってしまいますから、1200億円あった資本金を一旦5億円に減資し、その後、2250億円の優先株による増資を行い資本を強化します。

 当初は、1億円まで資本金を減額するというプランでしたが、これが新聞で報道されたところ、批判が殺到。結局は5億円にするという形で落ち着きました。批判の対象となったのは、資本金を1億円以下にすると中小企業向けの税制優遇が受けられるという点です。

 確かに資本金を1億円以下に減らせば、こうした優遇税制を受けることができます。しかし、これらの優遇税制は、本当に規模の小さい企業向けのものですから、シャープが形式的に中小企業となっても、実際に節税できる金額は、同社の企業規模から考えるとごくわずかです。

 もし同社が事実上倒産したというような状態であれば、100%の減資が行われ、株主が投資した分はすべて消えて亡くなってしまいます。同社はまだ倒産したわけではありませんが、資本をほぼ使い尽くした状態にあります。
 最終的な損失を負うのは株主ですから、1億円だけ資本金を残したというのは、象徴的な意味だと考えられます。中小企業の優遇税制を受けられるというのは、付随的なメリットにすぎなかったでしょう。

 その点では多少気の毒な感じがしますが、問題なのは、この報道を受けて同社経営陣が1億円までの減資を撤回し、5億円までの減資に切り替えるというドタバタ劇を見せてしまったことです。

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結局は銀行との関係を再構築しただけ
 増減資といった資本政策は、不特定多数の出資者を募る株式会社においては、すべてに優先するもっとも重要な事項です。この極めて重要な事柄について、外部から批判を受けたというだけの理由で、経営陣が右往左往し、あわてて変更してしまうというのは本来あってはならないことです。

 客観的に見て、同社の経営陣は、上場企業をコントロールする当事者能力を失いつつあると考えた方がよさそうです。こうした状況は、同時に発表された中期経営計画にもあらわれています。

 今回発行される優先株は2250億円ありますが、2000億円分は借り入れの返済に充当されます。実質的に同社の再建策に回されるのはわずか250億円しかありません。これではまともな事業改革はできないでしょう。

 経営計画でも、目立った事業の再構築プランはなく、基本的には人員削減など固定費の削減策が提示されているだけです。つまり今回のリストラ策は、単に帳簿上の数字をいじっただけであり、経営を抜本的に変革するものではないと判断できます。

 こうした状況は優先株を引き受ける投資家の顔ぶれを見ればさらにはっきりしてきます。優先株を引き受けるのは、メガバンク2行と投資ファンドなのですが、その投資ファンドも実は銀行が設立したものです。しかも先ほど記載したように、調達した2000億円はそのまま銀行への返済に回ります。

 つまり、これまで多額の貸付けを行ってきた銀行が、資金回収の目処が立たなくなり、優先株という形に変えただけというのが実態であり、結局のところ、銀行とシャープの問題に過ぎないわけです。

 もちろん、こうした形で財務状況を整理し、それから本格的な再建策を講じる手立てなのかもしれません。しかし、そうだとしても、場当たり的な対処という印象を拭い去ることはできないでしょう。

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