経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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日銀の量的緩和策が正念場。追加緩和か路線変更か?

 日銀の量的緩和策が正念場となっています。日銀は2年で2%という物価目標を掲げていましたが、最新の消費者物価指数はほぼ横ばいとなっており、物価が上がっていないことが明確になってきました。「2年程度」という期限も迫っており、日銀は近いうちに何らかの決断しなければなりません。

2年で2%は、ほぼ達成不可能
 黒田総裁は2015年3月17日、記者会見において「2%の物価目標を2年程度で実現する」という従来の方針を堅持する姿勢を強調しました。

 量的緩和策は約2年前の2013年4月にスタートしたのですが、当初は、物価は順調に上昇するかにみえました。2013年4月時点における消費者物価指数(代表的な指標である「生鮮食品を除く総合」)は前年同月比マイナス0.4%でしたが、緩和策がスタートすると物価は上昇に転じ、2014年4月にはプラス1.5%(消費税の影響除く)になりました。

 しかし、消費税増税が引き金となったのか、その後、物価上昇率はじわじわと低下し始め、2015年1月にはプラス0.2%と、ほぼ横ばいの状態に戻ってしまったのです。市場では原油安が続いていますから、このままでは物価がマイナスに転じる可能性も指摘されています。

 そこで問題となってくるのが、量的緩和策の継続です。

 「2%の物価目標を2年程度で実現する」という目標は、より具体的には2015年度中ということを意味しています。最大限引き延ばせば、2016年3月まで猶予があるわけです。

 しかし、物価上昇率が事実上ゼロに戻ってしまった今、現実的に、あと1年で2%という目標を達成することはほぼ不可能です。
 そうなってくると、2年で2%という目標を撤回するか、何とかその目標に近づけるようさらに手を打つのかのどちらかということになります。手を打つというのは、具体的にはもう一段の追加緩和を実施するという意味です。

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政府はすでに及び腰?
 黒田総裁が追加緩和の条件として掲げているのは「物価目標のシナリオが大きく狂う」場合です。今回の記者会見で、2年程度で2%という物価目標を変えないことがはっきりしましたから、そうなってくると、物価目標のシナリオが大きく狂っていると判断されるのはそう先のことではありません。

 つまり、今年中に、追加緩和を決断する必要が出てくることになります。実際、市場関係者の多くは、今年の夏に2回目の追加緩和があると見ているようです。

 もっとも、物価目標の堅持については、政府はすでに及び腰です。甘利経財相は「2年にこだわる必要はない」と発言しており、政府の月例経済報告でも「(物価目標について)できるだけ早期に実現する」との表現は使われていません。場合によっては物価目標を撤回してもよいと判断している可能性があります。

 もともと物価目標と量的緩和策は政府からの強い意向で始めたものです。日銀としては今さらこれを撤回するというのは容易ではありませんから、政府からハシゴをはずされた形にもみえます。

 この先は日銀にとってかなり厳しいみちのりが予想されます。追加緩和を実施すれば、もう一段の株高と円安が進む可能性がありますが、物価はそう容易には上昇しないでしょう。
 一方で輸入物価だけは値上がりしますから、国民の生活実感は悪くなる可能性があります。効果が少なく、弊害の方が大きいという事態になりかねないわけです。

 一方、物価目標を撤廃してしまうと、これは根本的な政策転換ということになりますから、株価や為替などに極めて大きな影響をもたらすことになります。

 進むも地獄、戻るも地獄と言う言葉がありますが、今の日銀はこれに近い状況かもしれません。いずれにせよ、近いうちに大きな決断をしなければならないことだけは間違いありません。

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