加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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中国主導のアジア金融システムとどう付き合うか?

 

 アジア地域の新しい金融システムをめぐってちょっとした事件がありました。英国の財務省が、中国主導で開設準備が進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明したからです。これは何を意味しているのでしょうか?

アジア開発銀行が持つ役割とは
 AIIBは、年内の運営開始を予定しているアジア地域向けの開発支援金融機関です。資本金は1000億ドル(約12兆円)といわれており、その多くを中国が出資するといわれています。

 すでに、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国やインド、ニュージーランドなど、27カ国が参加を表明していますが、主要先進国のひとつである英国が参加を表明したことから、一気に実現性が高まってきました。英国に続いてフランスと独も参加するという報道もあります。

 英国がこの構想に参加することで、これまで米国が主導してきたアジア地域の開発支援の流れが大きく変わる可能性が出てきました。米国が提唱するシステムにピッタリ寄り添ってきた日本にとって影響は大きいでしょう。

 米国は第二次世界大戦後、圧倒的な経済力を背景に、国際的な金融システム網を作り上げました。アジア太平洋地域でその役割を担っているのがアジア開発銀行です。
 この銀行は米国と日本が最大の出資国となっており、実質的な運営は日本に任されています。同行の総裁には日本人が就任するのがこれまでの慣例でした。

 アジア開発銀行は、アジア地域で行われる開発プロジェクトに資金を提供しています。どの国のどのプロジェクトに優先的に資金を配分するのか決めることができるわけですから、各国の経済政策にも大きな影響力を行使することが可能となります。

 アジア開発銀行の主導権を日本と米国が握っているということは、アジア地域での外交についても大きな発言力を持つことを意味しているわけです。

 日本は、どこまでその自覚があり、ふさわしい言動を取ってきたのかは別にして、これまではアジア地域におけるリーダーとみなされてきました。その理由のひとつがこうした国際金融システムにおける影響力だったわけです。

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日本はリアリズムに徹する必要がある
 しかし、中国が経済的に台頭してきたことで、この状況が変化しつつあります。中国は日本に代わってアジア太平洋地域におけるリーダーになろうとしていますから、金融システムにおける主導権をアジア開発銀行から奪いたいと考えているはずです。
 アジア開発銀行の業務と重複する銀行をわざわざ設立する背景にはそのような狙いがあるとみてよいでしょう。

 英国は主要先進国のひとつですし、英国市場は、米国市場に次いで規模の大きい国際金融市場です。そのような国が、この枠組みに参加するということになると、AIIBの実現性はかなり高くなってくるはずです。

 米国はとりあえず不快感を表明していますが、米国が本当に望んでいるのは、アジア太平洋地域における従来と同様の影響力であり、アジア開発銀行そのものではありません。
 米国にとって、中国は交渉相手であって、敵対する相手ではありませんから、米国が求めるものが得られるのであれば、米国はその形態についてはあまりこだわらない可能性もあります。

 その意味では、新しく設立されるAIIBとアジア開発銀行との間で何らかの提携関係が構築される可能性があります。日本としては、これまで独占していたアジア地域の開発支援金融の一部を中国に明け渡す可能性が出てきたわけですから、よいニュースとはいえないでしょう。

 しかし、現実的なパワーバランスを受け入れなければ、交渉を進めることはできません。これまで日本は米国が敷いたレールに乗ることで、アジアにおける主導権を労せずに確保できたという面があります。
 中国が提唱する新しい金融システムとどう付き合っていくのか、日本人の戦略性が問われています。

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