経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

アップルがなかなかダウ構成銘柄に採用されなかった理由

 米国を代表する株価指数であるダウ平均株価の採用銘柄に米アップルが加わりました。ダウは市場で影響力のある銘柄が常に採用されますから、本来であれば、アップルはとっくにダウ銘柄になっていておかしくない会社でした。ダウへの採用が遅れた理由は、ダウ平均株価が持つその特質にあります。

ダウ銘柄として残っているのはGE1社だけ
 ダウ平均株価を算出してる米S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは2015年3月6日、アップルをダウ平均株価の構成銘柄に採用すると発表しました。アップルの採用に伴い、電話会社であるAT&Tが構成銘柄から外れることになりました。

 ダウ平均株価は、算出開始が1896年という、非常に歴史と伝統のある株価指数です。120年近くにわたって、米国を代表する株価指数として使われてきました。

 ダウ平均株価の正式名称は、ダウ工業株30種平均というもので、本来は主力の工業株30種の指数でした。しかし、米国が製造業からサービス産業、知的産業へシフトするに従い、ダウの構成銘柄も次々に変わっていきました。
 ダウ平均が始まった時から現在まで構成銘柄として残っているのは、ゼネラル・エレクトリック1社しかありません(同社も2回、構成銘柄から外れたことがあります)。

 一昨年にも大きな見直しがあり、投資銀行のゴールドマン・サックスやクレジットカードのビザ、スポーツ用品のナイキなどがダウ銘柄に採用されています。

 ダウ平均株価の特徴は、構成銘柄の株価を単純平均するという点にあります。企業の時価総額などは考慮に入れず、新株の発行や分割などで見かけ上の株価が安くなった場合には修正を行い、過去との連続性を保つ仕組みになっています。これをダウ方式と呼びます。

 S&P500など、最近開発された新しい指数は、企業の時価総額などを考慮に入れるなど、市場全体の動きに忠実になるよう、複雑な計算式が設定されています。
 ダウ平均は、必ずしも市場全体の動きを反映してはいないのですが、常に有力な銘柄の「価格」に注目した指標であり、投資家の直感と非常にフィットします。ダウが120年も愛用され続けたのは、このシンプルな算出方法にあると考えてよいでしょう。

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アップルは株価が高すぎて採用しにくかった
 しかし、ダウには、単純平均であるが故に、株価が高い銘柄を採用してしまうと、その銘柄が全体に与える影響が大きくなりすぎるという欠点があります。
 アップルの株価は一時、500ドルを突破していましたから、同社株をダウに採用してしまうと、それだけでダウの指数が大きく変動してしまうことになります。

 アップルは時価総額が最大の企業であるにもかかわらず、ダウの構成銘柄に入っていなかったのには、このような理由があるのです。
 ところがアップルが2014年6月に分割を発表したことで、見かけ上の株価が7分の1となりました。これによって、他のダウ構成銘柄と同じ株価水準となり、ようやくダウの仲間入りを果たしたわけです。

 ちなみに日本でもっとも有名な株価指数である日経平均も同じダウ方式で計算されています。もともとダウとの提携で日本に持ち込まれたものであり、かつては東証ダウ、日本経済新聞社に権利が移ってからは日経ダウと呼ばれていた時代もありました。

 日本でもTOPIXをはじめとして、時価総額を考慮に入れた新しい指数が次々と開発されています。ダウや日経平均は時代遅れになったという指摘はいつの時代も聞かれるのですが、この両者は、今でも主要な株価指数として投資家に愛用されています。

 これは、過去からの連続性と投資家の直感に近いという部分が大きく影響していると考えられます。相場はとかく短期的な視野に陥りがちですが、時には長期の動きをじっくり観察することも重要です。
 その意味で、ダウや日経といった伝統的な株価指数については、今後も継続して算出していくメリットは大きいと考えられます。

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