加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

*

ネットの普及で「知」のあり方はどう変わったか

 

 ネットが情報のインフラとして確立してきたことで、「知」のあり方も大きく変わってきています。新しい枠組みを理解した上で情報収集をする人とそうでない人の格差は今後、さらに拡大していくでしょう。

かつては情報そのものに価値があった
 ネットが普及する前までは、重要な情報は、基本的に紙に書かれており、情報にアクセスすることそのものに結構な労力を必要としました。したがって網羅的に情報を収集することは難しく、とりあえず、ある分野を深堀りするという形で「知」を高めていくのが定番でした。

 また一次情報は一般の人には手に入りにくく、これを入手できた人は、整理して書籍などを執筆し、多くの人はそこから情報を得るという形式が一般的でした。このため書籍は非常に重要な情報源だったわけです。

 世の中のことをたくさん知ろうと思ったら、まずは書籍をたくさん読むことが必要であり、そのためには一定の支出が必要となります。書籍はそれほど高いものではないので、ここまでは何とかなりますが、そのうち、書籍を保管できないという悩みに直面することになります。

 筆者も若い頃はお金がありませんでしたから、狭い家に住んでいました。本好きの人の多くが経験してきたことですが、狭い家の中に次々と本が重ねられ、そのうち本の重みで床が抜けるという事態に至ります。転居の時に、高い現状回復費用を払ったことが何度もありました。

 しかし、ネットが普及し、これが知の空間となったことで、状況は一変しました。誰もが一次情報を入手することができるようになりましたから、理屈上は情報格差がなくなったわけです。またネット上を使えば、誰でもファクト(事実)を入手できますから、知っていることそのもの価値も大きく減ることになります。

 昔のように、詳しく知っているというだけでアドバンテージを得ることは難しくなってきたのです。

chinoarikata

情報の「粒度」に対する理解が重要となってくる
 そうなってくると「知」のあり方そのものも変わってくることになります。かつては物理的な制約から、特定分野を詳しく掘り下げることが重要でした。
 しかし、新しい時代においては、既存の知識を組み合わせて、全体像を再構成する、あるいは新しい価値を生み出すことの方がずっと重要になっています。まさにこれは知のパラダイムシフトと言ってよい状況でしょう。

 こうした時代においては、知識の身に付け方も変わってきますから、知的活動を行う際には、少々注意が必要です。特に重要なのが、ものごとの「粒度」に関する問題です。

 あるテクノロジーに関する知識と、企業経営に関する知識をネットで仕入れ、これをうまく組み合わせて新しい知見を得ようという場合には、両方の知識の深さについて、うまくバランスを取らなければなりません。

 テクノロジーについてはオタク的に詳しいものの、経営学についてはまったくの素人、という人では、いくらネットで知識を仕入れても、両者をうまくミックスすることはできません。
 当然のことですが、逆も同じです。つまり、知識を組み合わせる際には、それぞれの知識の「粒度」を揃えておく必要があるのです。

 また誰でも一次情報を手にできる分、生のデータを意味のある情報に料理するための工夫も必要となってきます。

 実はこの作業がなかなか大変なのです。というのも、あらゆる分野について、概略を知っていないと、どの位の粒度に統一してよいのか見当がつかないからです。

 確かに新しい時代においては、苦労して特定分野を深く掘り下げる必要性は薄れてきました。その分、今度は、より広範囲にものごとを知ることが求められています。概略レベルであらゆる分野のことを理解するという作業は、特定分野を深堀りすることより、実は大変な手間がかかるものなのです。

 結局のところ、ネットの普及で「知」の構造は変わりましたが「知」を獲得するための手間や苦労という意味では、何も変わっていないのかもしれません。

 - テクノロジー, 文化, 社会 , ,

  関連記事

kojinnjoho
個人情報はどこまで保護されるべきか?

 通信教育大手ベネッセホールディングスから大量の顧客情報が漏えいした問題で、警視 …

yaji
都議会ヤジ問題で筆者が絶望的な気分になる理由

 先日、東京都議会のヤジが大きな問題となりました。都議会としては、「信頼回復を目 …

taifu08
何十年に一度というキーワードが連呼される背景

 先日の台風8号は「10年に1度」「50年に1度」などと大変な騒がれようでした。 …

FRANCISCUS
宗教上の価値観さえも変容させるネット社会のインパクト

 ローマ法王庁は2014年12月6日、バチカンの不動産売却に関連した不正疑惑に関 …

facebooksoud001
フェイスブックの音解析サービスがもたらすインパクト

 SNS大手のフェイスブックは2014年5月21日、スマホのマイクを使って周囲の …

wakamonohikan
日本の若者はネガティブ思考?

 日本の若者は、諸外国と比べて自己を否定的に捉える傾向が強く、自分自身に満足して …

asotaroshusendo
麻生大臣の「守銭奴」発言はどういう意味?

 麻生財務大臣の「守銭奴」発言が話題です。麻生氏は2015年1月5日、日本企業が …

hirari
米大統領選が示す複雑化した米国社会

 民主党のヒラリー・クリントン前国務長官がいよいよ米大統領選挙への出馬を表明しま …

mrjphoto
三菱が社運をかけるMRJで日本のもの作りは復活するのか?

 半世紀ぶりの国産旅客機となる三菱重工のMRJ(三菱リージョナルジェット)がとう …

siawasebhutan
「心が豊か」という人が増加している背景には何がある?

 「心が豊かである」と考える日本人の割合が急増しているそうです。一方で「努力して …