経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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日本の年収トップ1%は1300万円から?

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 世の中、ピケティ・ブームが続いていますが、格差の象徴である上位1%をめぐって興味深い話があります。

日本の年収トップ1%は1300万円から?
 ある識者がテレビ番組で、日本のトップ1%の年収はどのくらいなのかと司会者から聞かれ「1300万円」と答えたところ、会場が凍ってしまったという話です。

 ピケティ・ブームにあやかり、格差問題を批判しようと意気込んで収録に臨んだところ、局の関係者や出演者が皆、この年収に該当してしまうことが分かったので、皆、狼狽してしまったのだろうと、この識者は述べています。

 トップ1%の年収が1300万円というとちょっと信じられない気がしますが、日本の場合はあながちウソではありません。
 国税庁のデータでは給与所得者の上位1%は1500万円以上となっていますし、厚労省の国民生活基礎調査でも、上位1%は2000万円からとなっています。
 国税庁のデータには、個人事業主が入っていません。個人事業主の一部は相当な高額所得者ですが、零細事業者も多いですから、平均値はそれほど高くないでしょう。個人事業主を入れても、トップ1%は2000万円くらいからになると思われます。

 また厚労省の調査は世帯全体ですから、個人ということになると、もっと数字が小さくなるはずです。そうなってくると識者が述べた1300万円という数字はかなりポイントを突いているということになります。

 さらにトップ5%まで対象を広げると、年収は1000万円まで下がります。

 1000万円というと、上場企業の管理職は多くが該当するでしょうし、商社やマスコミなどでは30代でこの金額に達してしまいます。公務員の一部もこの金額になるはずです。東京都職員の平均年収は約740万円ですから、年配の職員の中で1000万円を超えている人がいても不思議ではありません。

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日本は下方向への格差拡大
 もちろんこのデータは給与というフローですから、資産の部分は考慮に入っていません。しかし、所得が低いのに何億円もの資産があるという人はほとんどいないですから、フローの額と資産の額は基本的に比例します。全体の状況としては、資産を考慮に入れても結果はそれほど変わりないでしょう。

 これから何が分かるでしょうか?

 このところ日本では格差問題が深刻になっているといわれますが、日本の場合は、上への格差ではなく、下への格差だということです。

 米国の場合、米国のトップ1%の人の平均年収は1億円を突破しています(日本は2100万円)、トップ5%に拡大しても年収4000万円になります(日本は1200万円)。

 このような破格の年収を稼ぐ人がいる一方で、貧困層(国民の平均年収の半分以下で暮らす人)の割合は17%と先進国ではもっとも高くなっています。上の人がたくさん稼いでいるわけです。

 しかし日本の場合、富裕層の1%が年収1300万円以上です。中には、ユニクロの柳井氏のような超のつくお金持ちもいるでしょうが、ほとんどが、大企業に勤めるサラリーマンか公務員です。いわゆるお金持ちと呼ばれる人は非常に少ないのです。

 ところが日本の貧困率は米国と同水準で、先進国の中では突出して高い状況です。お金持ちがほとんどいないのに貧困率が米国並みにひどいという現実は、下方向の格差が顕著であるということを如実に物語っています。

 日本の場合、入学試験という10代の時のたった1回の試験結果だけで、その後の人生がすべて決まってしまいます。正社員になれた人とそうでない人との間には、その後の努力では埋めようのない格差が付いてしまうわけです。

 しかし、このような画一的な競争ルールは、低付加価値な工業化時代にはマッチしましたが、現代社会においては、制度疲労を起こしています。日本の雇用環境はもっと柔軟な方がよいでしょう。
 結果として、中間層の人も、もっと安心して仕事を続けられるのではないでしょうか。

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