加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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為替のスイス・ショックと円高・プラザ合意の共通点

 

 スイスの中央銀行にあたるスイス国立銀行が、自国通貨高を抑制するための為替上限を撤廃したことで、市場に動揺が広がっています。果たして、これは何を意味しているのでしょうか?

スイスの為替介入は当初はうまくいっていた
 スイスは、低迷が続く欧州の中では比較的堅調な経済運営を続けてきました。スイスの基幹産業は、プライベートバンクに代表される金融ビジネスと、高級時計を中心とした高付加価値製造業ですから、非常に豊かな国です。

 またユーロに参加せず独自の通貨であるスイスフランを採用していることもあり、スイスの通貨は欧州では安全資産とみなされています。このため欧州債務危機など、ユーロに対する不安心理が増大すると、スイスフランは過剰に買われる傾向にあります。

 基本的に自国の通貨が高く評価されるわけですから、悪い話ではありませんが、スイスの場合、これが突出しています。為替レートの関係で国際的に見たスイスの物価は非常に高くなっており、最低賃金を時給2500円にしてはどうかという国民投票が行われたくらいです(結果は否決でしたが・・)。

 ここまでくると、いくら高付加価値製品といっても、輸出に頼る製造業は苦しくなります。スイスではこれ以上のスイスフラン高は好ましくないという状況になっており、スイス中銀は2011年、為替の無制限介入を実施する方針を明らかにしました。

 これは、スイスフランの為替レートの上限を1ユーロ=1.2スイスフランに設定し、これ以上の通貨高になった場合には、無制限にユーロ買いの介入を実施するというものです。

 自国の通貨を売れば良いわけですから、この介入は理論的には無限大に実施することができます。このため、それに対抗しようという投資家は存在せず、一時期は為替も安定していました。
 
 自国通貨買いの介入は、売るための外貨を保有していないと実施できませんから、どうしても上限が生じます。しかし、自国通貨売りの介入は、理論的には無制限に実施することが可能ですから、その気になれば、いくらでも介入ができます。

 これを利用して、無制限に介入するという意思を表明することで、実際には無制限に介入することなく、為替を維持しようというのが、今回の政策のキモとなります。実際、この措置を発動して以降、3年間、為替は安定的に推移してきました。

swissfukei

プラザ合意直後の日本に状況が酷似?
 しかし、この状況を変えるきっかけとなったのが、再び顕在化してきた欧州の景気低迷です。
 このままでは欧州全体がデフレになってしまうことから、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和策の実施に踏み切る意思を固めました。そうなってくると、再びスイスフランが買われるのはほぼ確実です。

 スイスの中央銀行にしてみれば、すでにたくさんのユーロを持っているにもかかわらず、今後も為替維持のために、大量のユーロを購入し続けなければなりません。ユーロは今後、価値を下げることが確実なわけですから、スイスの中央銀行は巨額の損失を抱えてしまいます。

 いくら為替の安定のためとはいえ、これ以上の潜在的な損失拡大は許容できないというのが、スイス中銀の考え方だと思われます。

 かつてこれに似たような状況を経験した国があります。それは日本です。

 若い人にとってはすでに歴史上の話かもしれませんが、1985年のプラザ合意は円高とバブル経済のきっかけを作った非常に重要な出来事です。

 当時の日本経済は強く、日本円はその水準に比べて安すぎると批判されていました。これを是正するための措置がプラザ合意と呼ばれるものです(米国のプラザホテルで会合が開かれたのでそう呼ばれる)。

 日本政府は、合意に基づき、当初は、諸外国と同様、円買いドル売りの協調介入を行っていました。しかし、想定外に円高が進み、日本政府は慌ててしまいます。今度は、急激な円高を阻止するため、円売りドル買いの介入に踏み切ってしまったのです。

 しかし、全世界のマーケット相手に日本一国で勝負できるわけがありません。結局、円高は一気に進み、日本政府は巨額のドル含み損を抱えてしまいます。しかも市中にあふれた円資金をうまく回収できず、それは過剰流動性という形でバブル経済のきっかけを作ってしまいました。

 スイス中銀は、同じような状況になることを避けるために、自国通貨が高くなったとしても、価値が減るユーロを買い続けることを放棄したと考えられます。金融政策の責任者の脳裏には、プラザ合意における円高のケースがよぎっていたのかもしれません。

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