経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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とうとう日本の家計貯蓄率がマイナスへ

 日本の家計の貯蓄率がとうとうマイナスに転じました。内閣府が昨年末に発表した国民経済計算によると、2013年における日本の家計貯蓄率はマイナス1.3%でした。貯蓄率がマイナスになるのは初めてのことです。

貯蓄率の低下は経常収支の赤字化をもたらす可能性が高い
 家計の貯蓄率とは、可処分所得に対する貯蓄の割合を示します。貯蓄率がマイナスになったということは、日本人は収入以上に消費をしており、貯蓄を取り崩して生活しているということになります。

 貯蓄率がマイナスになると、いろいろなところに影響が出てくる可能性があります。もっとも大きいのは、経常収支が赤字になりやすくなることと、国債の発行が困難になってくることです。

 日本全体として考えると、私たちが貯蓄したお金は、国内の投資に振り向けられることになります。貯蓄が多く、投資で使い切ることができなかった場合には、財政赤字の補填に回されたり、経常収支の黒字となります。
 貯蓄率が下がってしまうと、国債に回すお金が減ってしまったり、経常黒字が減少することになるわけです。

 もっとも貯蓄率が赤字なのは家計だけで、企業はまだふんだんにお金を持っています。しかし、企業は本来、お金を貯め込む存在ではありませんから、家計の貯蓄率がマイナスになったということは、やがて日本全体の貯蓄不足を引き起こすことになるでしょう。

 今のところ日本の財政赤字が急激に改善するとは思えませんから、貯蓄の不足は、結果的には経常収支の赤字化をもたらす可能性が高いと考えてよいでしょう。

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貯蓄率低下の原因は過剰消費ではなく高齢化
 経常赤字は「赤字」という言葉の響きがよくないせいか、それ自体が悪いことであるというイメージがあります。しかし、経常赤字そのものが経済に対してマイナスの影響を与えるわけではありません。

 経常赤字になっているということは、必要なお金の一部を外国から調達しているというだけのことですから、それに合わせて、適切な経済政策を採用すれば、引き続き、経済を成長させることが可能です。実際、米国は長期間、経常収支が赤字ですが、経済は絶好調です。

 しかし、こうした経済情勢の変化に対して、うまく対応できないと、経常収支の赤字化がマイナスの影響を及ぼす可能性があります。安価な工業製品を大量生産するという、日本が途上国だった時代の産業政策を引きずっていると、経常収支の赤字化によって、さらに国内景気を悪化させることになってしまうかもしれません。

 むしろ、経常収支が赤字になることを前提に、海外から優良な投資マネーを国内市場に誘致するための金融市場の整備を行ったり、日本全体として資金の運用能力を高めていくような工夫をした方がよいでしょう。
 企業の競争環境を整備し、海外向けのM&Aを活発化させるのもひとつのやり方ですし、財政再建を積極的に行い、貯蓄率低下の影響を最小限にとどめることも重要でしょう。

 貯蓄率の低下が様々な結果を引き起こすからといって、無理に貯蓄率の低下を防ぐことはしない方がよいでしょう。なぜなら、日本の貯蓄率低下は、過剰消費ではなく高齢化によって引き起こされており、基本的に避けて通ることができない現象だからです。

 よく知られているように、日本は高齢化が進んでおり、労働人口が急激に減少しています。高齢者はどんなに頑張っても現役時代と同じようには稼げませんから、必然的に貯蓄を取り崩して生活することになります。
 企業の生産性を大幅に上昇させることができれば話ば別ですが、現状のままでは、高齢化の進展とともに貯蓄率は低下していくと考えた方が自然です。

 貯蓄率低下に歯止めをかけることができるすれば、それは、産業構造の転換による労働者の生産性向上ということになります。少し時間はかかりますが、これを実現することができれば、状況を大きく改善することが可能です。

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