加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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どん底に落ちたエリート官僚の顛末から考える日本の「学歴」

 

 エリート官僚からどん底に転落した顛末を書いた「肩書きを捨てたら地獄だった」という書籍が話題になっています。世間の反応は様々なのですが、日本において学歴がどのように機能しているのかについて知るという意味で、非常によい事例となっています。

エリート官僚から一転、最低の生活へ
 書籍を執筆したのは、宇佐美典也氏という経済産業省の元若手官僚です。思うところがあって同省を辞めたものの、しばらくは何をしてもうまくいかず、お金もプライドもずたずたになってしまいます。

 官僚時代私に頭を下げていた人が、一転して蔑むような目で宇佐美氏を見るようになり、非常に辛い思いをしたそうです。なりふり構わず仕事を探し、現在はようやく立ち直ったそうですが、それまでの経緯を記したのが本書というわけです。

 官僚を辞める人の多くはある程度の役職になるまで役所に在籍し、影響力のある業界に天下りのような形で転出する人がほとんどです。若くして辞める場合でも、その学歴や職歴を活かして、外資系コンサルなどに行く人が多いというのが現実でしょう。

 その意味で、こうしたコネがまったく生きない世界でキャリアを再構築した宇佐美氏の行動は、それなりに評価してよいと思います(政治家志望だったところが、結果的にそうなってしまったのかもしれませんが)。

 しかしネット上での反応の中には、宇佐美氏への賛同も数多くありますが、一方で「甘い」「そんな程度のことを地獄とは言わない」「世の中にはもっと厳しい環境の人は大勢いる」など、かなり厳しいものも見受けられます。

 これらの主張は、確かにその通りなのですが、人が置かれた環境は様々ですから、この環境が宇佐美氏にとっては地獄だったというのも、ひとつの真実と捉えて評価した方がよいのではないかと思います。

 ただ、ひとつだけ言えることは、宇佐美氏に対する肯定であれ、否定であれ、こうした本が話題になるという背景には、日本特有の学歴に対する価値観が存在しているということです。

metishomen

日本の学歴に対する認識は単純な製造業に向いている
 学歴というものをどう評価するのかについては、主に2つの考え方が存在するといわれています。ひとつはこれまで獲得してきた知識を担保するという考え方、もうひとつは将来のポテンシャルを担保するという考え方です。

 獲得してきた知識を担保するという考え方は、米国などでは主流の考え方です。大学でマーケティングを学んだ人は、その専門知識があるとみなされ、相応の処遇で就職できることになります。

 しかし日本はそうではありません。企業の新入社員の選抜基準として、何が専門だったのかはあまり重要視されません。代わりにどの大学だったのかが重要視されます。
 つまり「レベルが高い」と見なされている大学に入った人は、将来高い業績を上げると見なされているということになります。

 したがって、学歴は低いものの、今、抜群の業績を上げている人よりも、学歴が高い新入社員の方が、将来の社長候補になるわけです。こうした構造の頂点に位置しているのが、いわゆるキャリア官僚ということになるでしょう。

 もちろんこうした考え方は、どの国にも一定レベルで存在することなのですが、日本においてポテンシャル評価の割合が極めて高いことは事実といってよいでしょう。

 官僚という立場から「転落」してしまった宇佐美氏の顛末が本になるということは、宇佐美を嘲笑したり批判する立場であれ、賛同する立場であれ、彼が本来いるべきではない環境にいるという共通認識を持っていることになります。
 つまり、学業成績が優秀だった人は、官僚を頂点とするエリートになっているべきだという潜在意識です。

 しかし本当にそうなのでしょうか?

 単純に物作りをしていればよかった途上国の時代には、こうした画一的な学歴選抜はうまく機能しました。基礎学力が優秀であれば、大抵の仕事で高い成果を上げることが可能だったからです。
 しかし、変化が激しく、新しい価値を創造しなければならない現代では、こうした選抜方法は必ずしもうまく機能しません。

 むしろ宇佐美氏のような人物がたくさん出てきて、様々な経歴を持った人が、幅広い分野で活躍する状況にならないと、これからの時代を支える有益な人材は育成されてこないでしょう。

 せっかく本を書き、いい情報を提供してくれた宇佐美氏には悪いのですが、彼のような人物が話題にもならないような社会になることこそが、新しい時代を作る早道でしょう。

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