加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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海外で治療を受ける日本人が増える?

 

 国立感染症研究所の調査によって、7割の歯科が、歯を削る医療器具を厳禁せずに使っていることが明らかとなりました。ちょっと信じられない話ですが、日本の医療機関の実態はこのようなものなのです。

 調査対象となったのは、歯を削るドリルを取り付けた柄の部分です。歯には直接触れないものの、治療の際には口に入れるため、唾液や血液が付着しやすく、院内感染の原因となります。日本歯科医学会の指針では、使用後は高温で滅菌した機器と交換するよう定めています。

 ところが、調査結果では、患者ごとに必ず交換しているというのはわずか35%程度で、交換していないというところが17%もあったそうです。

日本では誰でも病院にかかることができるが

 日本は国民皆保険制度が完備しているので、誰でも極めて安価に病院で治療を受けることができるようになっています。しかし、この制度は、全員が等しく治療を受けられることを目的としていますから、質についてはあまり重視されていません。

 外国では自由に使える新しい薬が日本で使えないといった状況が起きるのは、こうした公的保険制度を前提にした医療システムが大きく影響しています。今回明らかになったずさんな衛生管理の実態も、公的保険制度と密接に関係していると考えた方がよいでしょう。

 一方、アジア各国では、医療はまだまだ高額所得者のためのものであり、それゆえに質の高い医療施設が多いという特徴があります。また、ドクターの多くが米国などで資格を取り、英語を話せます。このため国によっては、欧米から患者を積極的に受け入れ、医療を国際的なビジネスにしているところもあります。

 当然こうした医療機関では保険は使えませんから、それなりの金額を支払う必要がありますが、それでも米国などで治療を受けることを考えれば圧倒的に安く済みます。

 最近では日本語に対応したドクターを置く病院も増えてきており、日本人でもこうした海外の医療施設を利用する人が徐々に増えているそうです。

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日本の医療保険は実は年金よりも状況が深刻

 筆者の知人は、旅行がてら、歯の治療を受けるため、東南アジアに定期的に渡航しています。知人が言うには、歯医者に行ったあと、何度か感染症を引き起こしたことがあり、日本の衛生管理に疑問を持っていたとのことです。

 こうした外国人向けのクリニックがうまくいっている背景には、各国の公的医療制度が崩壊しつつあるという現実があります。社会保障が手厚いことで知られる北欧では、確かにすべての病気をタダ同然で治療することができます。しかし実際に病気になった時はかなり大変だといわれています。

 重篤な病気であるにもかかわらず、入院が2カ月待ちなどはザラで、半年以上待たされることも珍しくありません。誰もが医療サービスを受けられるようにした結果、その質が大きく下がってしまったわけです。

 実は日本の公的医療保険制度も非常に厳しい状況に置かれています。国民医療費の総額は40兆円に迫る状況となっており、毎年増加しています。また国民や企業が払う保険料だけではカバーできず4割が税金によって支えられています。多くの国民が意識していませんが、実は年金よりも医療の方が状況が深刻なのです。

 おそらく日本でも、これから公的医療サービスの質はどんどん下がっていくでしょう。一方、高額所得者向けの自由診療のサービスも増えてくることが予想されますが、こちらは目の飛び出るような値段が請求されることになります。
 金銭的に多少余裕はあるが、富裕層向けの超高額サービスを使うことはできない。こうした人たちが、アジアのクリニックに行くケースは今後さらに増えてくると思われます。

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