経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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生産性向上による残業抑制は、最大の少子化対策

 ネット旅行予約サイト大手のエクスペディアジャパンが行った調査によると、日本人の有給休暇消化率が向上し、25カ国中、7年連続最下位という状況から脱したそうです。もっとも下から2番目ですので、劇的な改善とまではいかなかったようです。

女性の方が圧倒的に生産性が高い?
 日本では以前から長時間労働の問題が指摘されてきました。有給休暇の消化も同じ問題の延長線上にあると考えてよいでしょう。労働時間の問題は、少子化の問題とも密接に関わっています。保育施設などハード面の整備を行っても、基本的な働き方が変わらないと、根本的な改善にはならないからです。

 労働時間の問題は、企業の生産性の問題でもあります。生産性の問題は、最終的には賃金に行き着くことになります。つまり生産性を上げることができれば、短い時間で高い賃金を得ることができるようになりますから、成長戦略しても、少子化対策としても有効なわけです。

 職場における男女の働き方についてちょっと面白いデータがあります。

 賃金構造基本統計調査によると、2013年における男性の月額給与は32万6000円、女性は23万3000円となっています。男性は女性の1.4倍稼いでいるわけです。
 一方、労働力調査によると、男性の月間労働時間は184時間、女性は140時間となっています。時間あたりの給料にすると、男性は1772円、女性は1664円となりますから、両者で大差はなくなります。確かに男性は女性よりも多く稼いでいますが、その分、長時間労働しているわけです。

 これは全体の平均値なのですが、同じ給料をもらっている男女を比較すると、結果はさらに顕著となります。

 社会生活基本調査を見ると、年収区分ごとの労働時間が分かります。年収400万円台の人同士を比較すると、男性は月あたり213時間働いているのに対して、女性は176時間しか働いていません。同じ年収で比較するならば、女性の方が圧倒的に生産性が高いのです。

 この結果に対してはいろいろな意見があるでしょう。

 男性社員から見れば、女性が家事や育児などで仕事を早く切り上げた分、男性社員がこれをカバーしていると主張するかもしれません。一方、女性社員からみれば、何とか仕事をやりくりして時間を作り、家事や育児の負担をすべて背負っているのだということになるでしょう。

 現実的に解釈すれば、男性の方が仕事の負荷が多い分、女性は多少早く帰り、家事や子育てを担当しているといったところだと思います。ただ、こうした役割分担が実施されるのも、全体として見た場合、短時間で仕事が終わらないからであり、やはり長時間労働を前提にした解決策ということになります。

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工夫次第でまだまだ生産性は上げられる
 では日本の職場では、これ以上労働時間を短くすることはできないのでしょうか?必ずしもそうではないと考えられます。

 この統計データは同じ年収の男女を比較したものですから、すべての女性が補助的で負荷の軽い仕事をしているわけではないと考えられます。それでも女性の方が生産性の高いのだとすると、やりようによっては、男性ももっと早く仕事を切り上げることが可能なのではないか?という推測が成り立ちます。

 生産性を向上させ、短時間で同じ仕事を実施するためには、人材の流動化など、雇用環境の変化が必要となりますから、実現はそう容易ではありません。しかし、生産性を上げて、労働時間を短縮することができれば、家庭における家事の負担感はかなり軽減されるでしょう。

 家庭の中で、夫婦のどちらが家事や育児をするのかは、夫婦が決めればよいことです。2人で均等に分担する人もいるでしょうし、妻が家事や育児を担当するという家庭もあるでしょう。ライフスタイルについて他人がとやかく口を挟むことではありません。

 ただ、いずれのやり方を選択するにせよ、労働時間が短ければ、様々な選択肢がでてくるわけです。年収の高い人でしたら、家政婦やシッターを雇うという選択肢がありますが、多くの人にとってそれは現実的ではありません。そうであれば、労働環境の改善は、少子化対策における非常に有効な解決策となりえます。

 生産性の向上は経済成長にも当然プラスの効果をもたらします。乗り越えなければならないカベは厚いですが、国をあげて取り組む価値は十分にあるはずです。

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